その理由とはいうまでもなく、歌詞の中の「逢いたくて」というキーワードです。

逢いたくて、というエモーショナルな感情表現のために、ビジュアル上とても有効なアプローチ。

 それが、わざわざ足を運んだプロセスを描くことなのです。

つまりこのMVは、HAN-KUNのメモリアルムービーという構造を持っています。

「あなたに=登場する人々一人ひとりに HAN-KUNが逢いたくて」訪れたメモリアルムービー。

“モンパチ”の原曲を愛する多くのファンへの配慮としても、好感度を与える構成となっているのです。

レゲエの聴かせどころ、 「トースティング(toasting)」と ラブソングのマリアージュ!

ラップの源流ともいわれる、「トースティング」とは?

ここでちょっと視点を変えて、レゲエで多用される「トースティング(toasting)」とその効果について少し考えてみます。

「トースティング」とは、別名「スカンキング」や「チャッティング」、「ディージェーイング」などとも呼ばれる歌唱法。

ビートやリズムに乗せてささやいたり語ったりする手法で、ライブの際など即興のパフォーマンスとしても行われます。

つまり湧き出す想いをそのままリズムに乗せるトースティングは、レゲエの聴かせどころともいえるパフォーマンスなのです。

実は「愛情表現にジャスト!」なトースティングの妙

実はこのトースティングが、特に「日本語のラブソング」において、最終手段ともいえるインパクトを発揮します。

たとえば、あなたが誰か想いを寄せる人に、素直な気持ちを伝えるシチュエーションを想像してみてください。

「好き」というシンプルで強い想いを伝えるだけでは、どこか物足りなさや言い足りなさが残ってしまうもの。

つい「こんな私だけど」とか「ずっと言えなかったんだけど」とか、付け足してしまいたくなるものです。

うまく伝えられずに言い淀んでしまったり、逆に溢れる感情や記憶を早口で付け足したくなったり…。

まさに、こうした溢れ出る感情や想い、記憶の中のディティール表現にぴったりなのがトースティング。

恋愛など繊細な感情描写において、このトースティング以上の歌唱テクはないといっても過言ではないのです。

このMVのHAN-KUNのパフォーマンスでも、このトースティングが実にきもちよくハマっています。

それにより、聴かせどころの後半部分に、オリジナル楽曲にはない独自の魅力を醸し出しているのです。

さまざまな愛のカタチがしみる、心憎い演出とパフォーマンス

演技を感じさせない、HAN-KUNの存在感

そして何と言っても特筆すべきは、HAN-KUNの演技力と圧巻のパフォーマンス。

どんな設定でもロコの人々に溶け込み、「逢いたくて」そこにいる空間や時間を違和感なく、自然体で表現しています。

やらせ感や作り込み感は一切なく、笑い、食べ、遊び、おどけるHAN-KUNの人間性が、そのままに画面に滲み出ている印象。

それが後に続くパフォーマンスと完全に一体化して見えるため、ライブシーンへの切り替わりもまったく気にならないのです。

ライブシーンには、MONGOL800のキヨサクもゲスト出演!

原曲リスペクトという意味だけでなく、そのプライベートな交流の一端まで垣間見せてくれるシーン。

それが、ライブシーンにおいてモンゴル800キヨサクが登場する場面です。

とはいえその登場もさりげなく、ライブの臨場感や迫力を損ねてしまうことはありません。

「分かる人には分かる」編集・演出を心がけている点など、心憎い限りといえます。

“日本とジャマイカの音楽を繋げたい” そんな想いを名曲で具現化したMV

このように、さまざまなアングルからこのMVを見てみると、HAN-KUNのある言葉が連想されます。

それは、「日本とジャマイカの音楽を繋げたい」との想い。

そんな想いをヒューマンな名曲で具現化したのが、このMVなのだという印象を強く抱かされます。

それは単に、ジャマイカを発祥とするレゲエを、はるか極東の日本の地で花開かせるということではありません。

いわば、国籍や民族、文化の垣根を“オフビートに乗って”悠々と飛び越えること。

音楽という「架け橋」で人の想いや感動をダイレクトに結びつけたいという、祈りや願いに近いものと取れます。

あるいは、このMVにちなんだ言い方をするなら「音楽や芸術をパスポートとする旅」のようなもの。

道なき道を切り拓き、旅し続けるアーティストの覚悟のようなものなのかもしれません。

もし仮にそうであるなら、そんな旅の続編をもっともっと観てみたくなるのは筆者だけではないと思います。

 

今回はHAN-KUNのカバーによる『あなたに』にスポットを当ててご紹介しましたが、

改めてMONGOL800の原曲の奥深さにふれてみたい方は、ぜひ以下の記事をご参考ください。

「小さな恋のうた」と並んで、MONGOL800で愛され続ける曲と言えば「あなたに」。もはや国民的名曲と言っても過言ではないこの曲の歌詞を徹底解説していきますよ!

さらに、HAN-KUNがメインボーカルを担当した湘南乃風でのパフォーマンスや、代表的な名曲『睡蓮花』の魅力を再確認するには、以下の記事がおすすめです。 

湘南乃風といったら、「純恋歌」と並んでこの「睡蓮花」が有名ですよね。湘南乃風をあまり聴かない人でも、この2曲がかかっていると思わず口ずさんでしまうという人も多いことでしょう。今回はそんな「睡蓮花」について、歌詞に込められた深い意味も含めて詳しくご紹介していきます。

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