椎名林檎の「虚言症」をピックアップ
新宿系自演屋からバンドのボーカリスト、楽曲提供を手がけるソングライター、芸術家。
椎名林檎は、自身が持ちうる個性を余すところなく世に送り出し続けています。
デビュー当初、強い眼力でカメラを見据えながらギターを「弾く」のではなく「かき鳴らす」姿が印象的でした。
現在はしっとりとした大人の色香をまとう曲が多くなり、以前にも増して「誰も踏み込めない道」を歩いています。
大ヒットアルバムのオープニング曲「虚言症」
2000年3月にリリースされた椎名林檎の2ndアルバム「勝訴ストリップ」。
ミリオンヒットとなった前作「無罪モラトリアム」を越え、ダブルミリオンを達成しました。
全13曲収録のアルバムのオープニングを飾っているのが、今回ご紹介する「虚言症」です。
楽曲全体のサウンドはメジャーコード主体で明るく、オープニングにふさわしい曲と言えるでしょう。
前作アルバムの1曲目「正しい街」に通づる雰囲気があります。
しかし歌詞は「どうしてこれを幕開けに選んだのか」と首をひねってしまうような内容です。
詞が書かれた背景も、そうした印象に拍車をかけます。
新聞記事に触発されて書いた歌詞に注目
椎名林檎が高校生だった1994年〜1996年頃に「虚言症」が作られました。
新聞に載っていた事件から彼女自身が感じたことを歌詞にしたのだとか。
その事件とは、少女の自殺。線路への飛び込みだったようです。
椎名林檎は少女の死に何を思ったのでしょうか。
当初「大丈夫」というタイトルがついていた曲が「虚言症」に変わった背景は?
「虚言症」に秘められたメッセージを紐解きます!
「虚言症」とはどのような病気なのか
曲のタイトルである「虚言症」とは、どういった病気なのでしょうか。
そもそも「病名」なのでしょうか。
「虚言症」という病気はない!
他者から認めてもらいたい。注目されたい。誰かの目を引きつけておきたい。
そういった心理から嘘をついてしまうのが「虚言症」?
実は「虚言症」という病名は存在せず、人間の性質として「虚言癖」という言葉が用いられています。
精神科領域の統合失調症やパーソナリティ障害の症状として現れることがあるそうです。
椎名林檎は「虚言症」という病名がないことを知らずにこのタイトルをつけたのでしょうか。
知っていながらタイトルにしたのであれば、何か意味がありそうですね。
今まさに追い詰められている人へのメッセージ
自殺した少女は何を思っていたのか。
椎名林檎は事件に対して何を思ったのか。
事件を取り巻く「その他の人」について言及します。
未来への地図は真っ白に
しかし何故にこんなにも
眼が干く気がするのかしらね
出典: 虚言症/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
少女が線路に身を投げて自殺をした。
その新聞記事を読んだ椎名林檎は悲しみのあまり涙を流したわけではありません。
いじめや家庭環境、学校環境や進路を苦にした少女の自殺は、当時珍しいことではありませんでした。
椎名林檎の心のどこかで「ああ、またか」という印象はあったのでしょう。
いちいち心を痛めて涙を流すようなことではなくなってしまった。
それを「眼が乾く」と表現しているのではないでしょうか。
当たり前になって、大きく取りあげられなくなってきた「気がする」。
大きく取り沙汰されなくなってきているけれど、このままでいいのだろうか。
当たり前にしていい事件ではないという椎名林檎の思いを感じる2行です。
黄色の手一杯に
広げられた地図には 何も 何も無い
出典: 虚言症/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎