男と女の業と縁
2人の逃亡劇はまだ終わらない
ああ鮮明になる 暫定ターゲット
さあいよいよ大気圏脱出しようか
正反対の番同士とうに特性を失い切っている
お前の深い海底へ ±私の荒い山頂を埋めて
出典: 駆け落ち者/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
2人の逃亡劇はまだまだ終わりを見せません。
先ほど撒いた追手とは別に新たな追手のターゲットとして追われているようです。
地上に逃げ場を失った2人は別の次元への逃走を試みたようですね。
下界へ追われたアダムとイヴと、追放された方向こそ違えど別の世界へ追われているという状況は同じです。
長い間追われ続けた2人は、その年月によって元の完全体からはほど遠い存在と成り果てました。
だからこそ、互いに相手にないものを埋め合う存在となったのです。
互いに相対しながらも1つとなる、不思議な存在
余裕は欲しくない もっと塞いでいて欲しい
ね丁度いいだろう 全然余っていないだろう
そう本来完成しているの
酸性と塩基性らしい
出典: 駆け落ち者/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
アダムとイヴの物語は先ほども述べたように、宗教によって諸説ある物語とされています。
最もアダムとイヴの存在がメジャーとされているキリスト教には、こんな教えがあるそうです。
また、福音派でも「女の真の定義は男からとられた者」「男の一部」であり、パウロはアダムとエバの類比をキリストと教会の関係に当てはめているとされる。「女はアダムのわきからとられた。教会が出てくるのは、主の傷ついて血のにじむわきからである。」そのため人は妻と結ばれて「一心同体」になるのであり、教会はキリストの花嫁と呼ばれている。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/アダムとエバ
白と黒、凸と凹、S極とN極、そして酸性と塩基性=アルカリ性。
互いに対となるものは、この世にたくさん存在しています。
それらの多くのものは、とても一言では表せないような関係で成り立っています。
相手にないものを持ち、自分にないものを持っている関係。
同時に、それによってお互いがお互いを補い合う相補の関係。
時として、それにより全く相容れない対立の関係。
此岸と彼岸のように、一度も交わることのない対比の関係。
男と女という存在も、そんな不思議なものであると椎名林檎は歌っています。
遙か昔、アダムとイヴの時代から始まった男と女を結ぶ不思議な縁。
そのもので完成するはずの人間は、こと男と女に関しては、混じり合うことでさらなる完成形となるのです。
駆け落ちの逃亡劇の先に待つものは
PHは7の侭結び付く侭
迷ってほしくない ずっと選んでいて欲しい
依存し合っていて やっと補完し合っていて
もう生涯完成しているの
宣言したい
ハロー真空地帯!グッバイ世界!
出典: 駆け落ち者/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
PHは『ペーハー』と読み、液体の酸性・アルカリ性の度合いを示す尺度です。
学生の頃学校の授業で習った、という方もきっと多いはず。
では楽曲に登場する『PH7』がどういう状態かというと、ずばり中性の状態のこと。
酸性とアルカリ性のどちらでもない、ちょうど真ん中の状態のことですね。
酸性もアルカリ性も、どちらも強いものは人体に影響を及ぼすレベルの状態です。
この2つが混ざりあうと、不思議なことにどちらの強さも打ち消され、フラットな状態となってしまう。
学生時代に理論は机上で学んだものの、改めて考えると不思議な現象ですね。
椎名林檎は、男と女の関係もそんな不思議な現象に近いとメッセージしたいのでしょう。
そんな男と女、大気圏まで突入した2人の逃亡劇の果ては真空空間の広がる宇宙。
音もなければ光もない、自分も相手も認識できない暗闇の広がる世界です。
極限の地へと赴いた2人の『駆け落ち』は、ここでやっと終結するのでした。
自分と相手の認識ができないということは、自分と相手が一体でもあるということ。
真空空間まで逃れた2人は、やっと1つの完全体へと戻る事ができたのかもしれません。
これまで追われた世界への別れを最後に告げた2人。
男女の『駆け落ち』の物語は、時として『心中』という2人のこの世界からの逃避を結末に迎えることも。
そんな『駆け落ち』の結末も暗に表している、そんなフレーズなのではないかと思います。
最後に
いかがでしたか。
椎名林檎が歌う、壮大な男と女の逃亡劇を描いた楽曲【駆け落ち者】。
櫻井敦司の凄みのある声色が、椎名林檎の声色と重なることによってより楽曲の雰囲気を醸し出していますね。
この2人のコラボレーションだからこそ、表現できる世界観なのではないかと思います。
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最後に、本記事と併せてお読み頂きたいOTOKAKEの記事を少しだけご紹介。
今回はアルバム『三毒史』に収録の豪華コラボレーションの楽曲記事をピックアップさせて頂きます。
向井秀徳以外のボーカリストに関しては、偶然か必然か椎名林檎と同い年の面々を迎えて作られた本作。
『ボーカリストの当たり年』を代表するのは、【駆け落ち者】を歌う櫻井敦司だけではありませんでした。