the engy「Under the water」を解釈!
ブラックミュージックをルーツとして新たな音楽を再構築するアーティストは、日本でも増える傾向にあります。
生音とデジタル音を絶妙に掛け合わせることによって生まれるグルーヴ感がたまらないという方もいるでしょう。
そんななか日本のブラックミュージックも極まったと感じさせてくれるバンドが登場しました。
それがthe engy(ジ・エンギー)。
ボーカル&ギターの山路洸至(やまじ こうし)さんはエド・シーラン好きを公言されています。
Suchmos(サチモス)やNulbarich(ナルバリッチ)の影響も受けているようです。
そのためかR&Bやファンク、ジャズ、ヒップホップなど様々な要素がありながらも非常にポップ。
山路さんの艶っぽい声もいいですね。
80年代に「ファスト・カー」が大ヒットした女性シンガー、トレイシー・チャップマンの歌声を彷彿とさせます。
2020年2月リリースのドラマ主題歌「Driver」など数々の気になる名曲があるなか今回ご紹介するのはこちら。
「Under the water」です。
2018年10月に発売された1stミニアルバム「Call us whatever you want」の1曲目を飾ります。
2019年10月のメジャーデビュー以前なので、インディーズ時代の名曲。
しかもthe engyというバンドで初めてMVが制作された楽曲です。
歌詞を彩るような浮遊感にあふれた映像になっていますので、併せてご覧いただくと理解が深まるでしょう。
作詞は山路さん。全編英語です。
そんな「Under the water」について独自に和訳しつつ、解釈していきます。
歌詞と和訳をチェック
群衆の中の疎外感
I don't know why you can live
with the people
People around you
They hurt you
But you choose
to be with them
And I don't know
how to stay away from people
They're never
going to leave me alone
出典: Under the water/作詞:山路洸至 作曲:山路洸至
僕はわからない。
なぜあなたが人と共に暮らせるのか。
まわりの人はあなたを傷つける。
それなのにあなたは選ぶ。
人と一緒にいることを。
そして僕はわからない。
人から離れる方法が。
誰も僕をひとりにするつもりはない。
「おろろ~ん」と空耳してしまう冒頭のコーラスから既に切なさがにじみ出ています。
続くボーカルパートで歌われている主なテーマは疎外感でしょう。
歌物語の主人公の男性は、決してひとりでいるわけではありません。
むしろひとりになりたいのにまわりが放っておいてくれない状態です。
男性は「わからない」と疑問を投げかけています。
その語りかけている相手は、おそらく愛する女性なのでしょう。
男性はまわりの人すべてが敵のように感じているのかもしれません。
もしくは愛する女性が様々な人と交流して傷つく様子を見ていられないといった雰囲気もただよいます。
一歩踏み込んで解釈すると、女性は数多くの恋愛で傷ついても、めげずにまた恋をするのかもしれません。
そんな恋多き女性を見て、男性はひとりになりたいと願うものの結局はたくさんの人にまぎれているのでしょう。
タイトルの意味
I can't help myself
Staying under the water
出典: Under the water/作詞:山路洸至 作曲:山路洸至
水の下にとどまらずにはいられない。
タイトルを含むフレーズが何度も繰り返されるサビです。
今のところ切ない歌い方からラブソングなのでは?と解釈しています。
ただ、主人公が男性で、愛する女性に語りかけているという状況もはっきりしたものではありません。
しかし、明確にそうではないという判断材料もないので、登場人物はこのままで進めましょう。
それでも曖昧なのが場所設定です。
男性はどこにいるのでしょうか。
タイトルを含むこのフレーズでは、水面下から抜け出せない様子です。
ただ、実際プールや海の中にもぐっているとは考えにくいでしょう。
まわりにたくさんの人がいるのにうまく溶け込めず、気分が落ち込んでいる状態をたとえていると解釈できます。
それにしてもなぜ落ち込んだままの状態から抜け出せないのでしょうか。
水の下にとどまる理由
クラブの片隅にいる?
Look,
You don't see me
on the dance floor.
What should I dance for?
Shaking the head.
But eyes
watching the sky fall.
Maybe, I need to sleep more.
Maybe, Leave me alone
is my last words.
出典: Under the water/作詞:山路洸至 作曲:山路洸至
ごらん。
僕はダンスフロアにはいないだろう。
何のために踊らなければならないの?
頭を揺らしてさ。
でも目に見えるのはこの世の終わり。
たぶん僕はもっと眠る必要がある。
たぶん放っておいてが最後の言葉さ。
ソフトなラップの前半部分です。
ここにきてダンスフロアという言葉が出てきましたが、そこにはいないと男性は語っています。
ただフロアが見える位置なのでどうやらクラブの片隅にいるイメージです。
群衆の中で疎外感を覚えていた理由がわかってきたのではないでしょうか。
まわりの人は楽しく踊っているのに、男性は踊る気分ではないようです。
カウンターやソファーの隅でお酒でも飲んでいるのかもしれません。
しかも、しっかり目を開けていられないほど眠たいみたいです。
女性のことが気になって目を離せず睡眠不足だった可能性も考えられます。
男性自身が自覚しているとおり、家に帰ったほうがいいかもしれません。
スカイフォール?
このラップ前半で気になるのは「the sky fall」という表現。
直訳すると「空が落ちる」ですが、「この世の終わり」と意訳しました。
まぶたが落ちてきて目の前が真っ暗になる様子を表しているのでしょう。
さらに「スカイフォール」といえば映画「007スカイフォール」で描かれたジェームズ・ボンドの出生地。
イギリス、スコットランドにあるという架空の街が浮かぶかもしれません。
007シリーズの主人公ジェームズ・ボンドは女性にモテますが、この歌の男性はそうでもなさそうです。
また空が落ちて水面下にとどまる光景を想像してみるのも美しいでしょう。
ただ綺麗な描写とは裏腹に疎外感から抜け出せない男性の心情は複雑です。
踊らないのに居場所はクラブ。
相反する状況に身を置き、矛盾した気持ちを抱えているため「水の下にとどまっている」のでしょう。