トランジスタラジオ

ターニングポイント

【トランジスタラジオ/RCサクセション】歌詞を徹底解説!授業をサボってラジオを聴く少年の心境とは?の画像

1980年10月にリリースされた、RCサクセションの11thシングル「トランジスタラジオ」

ワイルドでリズミカルなエレキギターのリフと、伸びやかなサックスの音色が印象的なこの曲。

英国のロックバンドロキシー・ミュージックのサウンドを思わせるサウンド。

つまり、忌野清志郎の派手なルックスを含め、グラムロック風の華やかなナンバーです。

1970年にアコースティックのバンドとしてデビューした彼ら。

本格的なロックバンドに転身したのは、1970年代の終わりでした。

怒涛の音源リリースを重ねた1980年は、再出発した彼らにとってターニングポイントの年になります。

1月と5月にシングル「雨上がりの夜空に」「ボスしけてるぜ」、6月にライブアルバム「RHAPSODY」を発売。

12月のアルバム「PLEASE」を前にリリースされたのが、「トランジスタラジオ」でした。

海の向こうの刺激的な音楽への憧れを募らせる、ロック少年の心を歌ったこの曲。

そんなRCサクセションの曲もまた、現実のロック少年たちの心に響いたのです。

これぞロックバンド、と呼べる圧巻のプレイとサウンド。何かに憧れたり、心を震わせたりすることの素晴らしさ。それは、「自分らしく」あることで手に入れられるのです。

パーソナルなメディアの登場

ライフスタイルを変えた携帯性

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トランジスタラジオとは、ラジオ放送の受信機のこと。

1950年代、それまでの真空管ラジオに代わって普及が始まりました。

省部品・省電力化で小型・軽量になったラジオは大量生産され、瞬く間に広がります。

テレビは一家に1台しかなく、家族で共有するのが当たり前だった時代。

一般家庭には、高価なビデオデッキもありませんでした。

もちろん、インターネットというものは存在すらしていません。

そんな時代に、書籍や雑誌以外で個人がいつでもどこへでも持ち出すことができたメディア

それが、ラジオだったのです。

音楽とトランジスタラジオ

世界につながる魔法の道具

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1980年代の初め、最もポピュラーな音楽ソースはレコードでした。

1980年当時のEPレコード(シングル盤)1枚の価格は700円

アルバム盤のLPレコードは、2800円

好きなアーティストのレコードを聴きたくても、学生には簡単に手が出なかったのです。

ラジオから流れる曲をカセットテープに録音するエアチェックが広まったのは、1980年より後。

FMラジオ局のステレオ放送と、ラジカセの普及が進んでからのことでした。

レンタルレコード店が一般的になったのも、1980年代に入ってから。

お茶の間のテレビの音楽番組で流れるのは、ステレオタイプの歌謡曲や演歌ばかり。

そうした環境に満足できない、感性鋭い若者たちが支持したのはラジオ番組でした。

在日米軍向けに最新のロックなどを流すFEN(米軍極東放送網、現AFN)は、静かなブームに。

海外から届く短波放送に乗った音楽も、若者たちの貴重な情報源でした。

日本の民放ラジオ局も、国内外のマニアックな音楽を紹介する番組を立ち上げます。

若者たちにとってのラジオは、未知の世界への扉を開いてくれる魔法の道具にほかなりませんでした。

瑞々しい歌詞

空の向こうに見ていたもの

Woo 授業をさぼって Yeah 陽のあたる場所に
いたんだよ
寝転んでたのさ 屋上で タバコのけむり
とてもあおくて

内ポケットにいつも Oh トランジスタ・ラジオ
彼女 教科書ひろげてる時 ホットなナンバー
空に溶けてった
Ah こんな気持ち Ah
うまく言えたことがない NAI AI AI

出典: トランジスタ・ラジオ/作詞:忌野清志郎、G.1,238,471 作曲:忌野清志郎

忌野清志郎が自身の実体験を歌ったといわれているように、リアルな描写の歌詞

「授業をさぼって」というのは、自由なスピリットを象徴するメタファーのように思えます。

空から降り注ぐ電波を通してやって来た「ホットなナンバー」

小さなスピーカーから飛び出したサウンドは、また「空に溶けてった」のです。

形にして手元に残すことができないからこそ、また聴きたいと夢中になる音楽。

それは「タバコのけむり」にも、よく似ています。

ホットなナンバーが「溶けてった」空を見上げる主人公。

音楽の余韻に浸りながら、広い世界へのイマジネーションを膨らませていたと思えてなりません。

事実、当時の若者が世界の広さや動きを知る手段は、国境を越えて伝わる音楽でした。

21世紀の私たちが、SNSや動画共有サイトを通じて世界を知るのと同じことです。

音楽は、聴いて楽しむばかりのものではありませんでした。

レコードのジャケット写真も、アーティストの世界観やメッセージが込められた立派なアート。

若者たちは、そこから伝わるファッション思想にも大きな影響を受けました。

眠りに就くのも忘れ