素顔の「RCサクセション」
アルバム「Baby a Go Go」に収録
70年に「宝くじは買わない」でシングルデビューを果たし、72年のシングル「ぼくの好きな先生」がヒット。
その後の活躍は多くの人が知るところですが、彼らの歩みは決して順風満帆とは言えないものでした。
「I LIKE YOU」は紆余曲折を経た活動の最末期、90年9月に発表。
最後のオリジナルアルバム「Baby a Go Go」のオープニング曲です。
カップリング曲は、同じアルバムに収録されている「忠実な犬(Doggy)」。
同じ月のアルバム発売に先行してリリースされた「I LIKE YOU」も、オリジナルとしてはラストシングルになりました。
91年1月から無期限で活動休止したまま、復活はついに叶わなかったRCサクセション。
「I LIKE YOU」は、彼らがファンに残してくれた「最後のメッセージ」なのです。
原点回帰の「偉大なる1回転」
「Baby a Go Go」は、RCサクセション本来の持ち味がよく表れたアルバムとして高く評価されています。
70年代前半の時代背景を反映し、フォークグループとしてデビューしたRCサクセション。
「雨上がりの夜空に」
「ボスしけてるぜ」
「トランジスタ・ラジオ」
80年代の始まりの年にリリースされたシングル3曲のタイトルです。
70年代中盤から後半にかけて低迷した彼らは、ロックバンドとして見事に「再生」しました。
それから10年。11枚目となったアルバム「Baby a Go Go」はフォークロックのテイストが濃い作品です。
仲井戸麗市(CHABO)が鳴らすギター、忌野清志郎の歌は素朴でシンプル。
サウンドにも歌詞にも、温かみが感じられます。
70年代風のアナログ録音にこだわり、全編が1つの曲のような一体感を持っています。
そんな傑作を象徴する曲が、肩の力を抜いたミドルテンポの「I LIKE YOU」。
原点の音楽性に戻ったかのようなこのアルバムを、ある音楽評論家は「偉大なる1回転」と表現しました。
しかし、ここで1つの疑問が浮かびます。
時はバンドブーム。
ロックバンドとして成功していたRCサクセションはなぜ、原点に戻る必要があったのでしょうか。
その答えは、彼らがいわゆる商業音楽の世界ではあり得ない「事件」を起こしたからだったのです。
激動の80年代
過激さを増すギミック
80年代は忌野清志郎のソロ活動を含め、RCサクセションに栄光をもたらした時代です。
その要因は音楽性の素晴らしさもさることながら、活動のギミックが過激さを増したことにもあります。
サウンド面でロックに傾倒する中、忌野清志郎はそのビジュアルも劇的に変化します。
長かった髪を切り落とし、派手なメイクと衣装がトレードマークに。
82年には、坂本龍一とコラボレーションしたシングル「い・け・な・いルージュマジック」をリリース。
忌野清志郎の事実上のソロデビューとなったこの曲は大ヒットし、資生堂のCMソングに起用されました。
PVで2人がキスするシーンも話題になり、音楽ファン以外の人にも衝撃を与えました。
88年、RCサクセションは反戦、反核、反原発の主張をシニカルに歌ったアルバム「COVERS」を制作。
アルバム収録のシングル曲とともに所属レコード会社が発売中止を決定する異常事態となり、世間の耳目を集めました。
レコード会社の親会社は、原発メーカーでもある大企業。
メジャーなバンドとしてはおよそ考えられない先鋭的なギミックは、まさに「事件」として受け止められたのです。
忌野清志郎は89年、その鬱憤を晴らすように、さらに過激な覆面バンド「タイマーズ」を結成。
80年代の忌野清志郎、RCサクセションのイメージを表す言葉は「過激」以外の何物でもありませんでした。
「ラブソングのバンドに」
最後のメッセージ
「COVERS」の大騒動から2年。19枚目のオリジナルアルバムとしてリリースされた「Baby a Go Go」。
制作に当たり、忌野清志郎が抱いたのは「普通のラブソングのバンドに戻りたい」という思いでした。
活動休止状態にあった70年代半ばの代表曲「スロウ・バラード」は、極上のラブソング。
80年代の幕開けとともにギアをチェンジし、信じる道を突っ走った末の「原点回帰」は自然なマインドだったのでしょう。
「Baby a Go Go」、そして「I LIKE YOU」は、必然的に誕生した作品だったといえます。
制作前にはキーボードを弾くGee2woが、制作途中でもドラマーの新井田耕造が脱退。
RCサクセションは、バンドとして苦境に追い込まれます。
それでも、残った3人のメンバーは必死にアルバムを完成させます。
まるで、この作品がRCサクセションの「最後のメッセージ」になることを知っていたかのように。
収録曲には、慈しみの境地に達したかのような愛情と優しさが込められています。
とりわけ「I LIKE YOU」はそうした特徴が強く表れている、フレンドリーな曲なのです。