傷の物神化
いっぱい傷が欲しい
きず この言葉 好きみたい
きず このリズム はなれない
ずき かなりただれてしょうがない
きず こんな調子じゃなおらない
Baby つけてほしいの
きずを もっときずをもっともっとつけてほしいの
出典: きず/作詞:Kenta Hamano 作曲:Kenta Hamano
繰り返し箇所は紙幅の関係で省略いたしました。
もうこの段階では傷フェチになっています。
一方で「きず」と「ずき」を巧妙に繰り返し傷のズキズキ感を音韻で表現するのです。
言葉は相変わらずパーカッションとしても機能します。
傷フェチになってしまっては古い傷を新しい傷で上書きするような悪い癖を付けてしまうでしょう。
これは精神病理学の範疇の話にもなり深刻な問題です。
物神性=フェティッシュに当て嵌まるものが傷をも崇拝の対象にしてしまう。
こうなると傷は「持ち物」になりもっともっと所有欲を満たしたくなるはずです。
傷人間を生む日本社会
可哀想アピールに冷たい
忙しい日々の中で軽くでも病んでゆくと傷人間が誕生することがあります。
働き方改革を政府が進めても中々長時間労働は減りません。
底辺を覗くと最低賃金いくかいかないかの賃金で過酷な労働を続けている外国人研修生。
彼・彼女は傷人間予備軍か紛うことなき傷人間です。
「きず」の作品化は2010年ですがそれから事態はどんどん酷くなるよう。
劣悪な環境でも頑張って働いてしまう人は傷人間の資質があります。
いざ、自分が傷ついていることに気付いたら今度は被害者意識が湧いてくるでしょう。
この被害者意識は糾弾されるような性格のものではありません。
正当な事由があって初めて抱いた被害者意識は権利者としての自覚の始まりです。
その気持は大切にしたいもの。
しかし哀しいかな「私は傷人間です」みたいな可哀想な私アピールに対してこの社会は冷たいのです。
共感性の鈍磨。
傷はたくさん持っていても報われることは少ないです。
傷の多寡が価値評価されるのはアウトロー社会だけだと肝に銘じてください。
自身にできてしまった傷はやはり適切なケアを得て快癒するまで包帯を見せびらかす程度にしましょう。
一億総傷人間社会
メンタルの傷は適切なケアを
きず がんばってるとつくみたい
きず 外からはわからない
ずき 頭からはなれない
きず こんな調子じゃなおらない
出典: きず/作詞:Kenta Hamano 作曲:Kenta Hamano
メンタル面で傷つくと人は治癒まで長引いてしまいます。
真面目で頑張り過ぎの人たちは一定の鬱傾向を持つというのは精神病理学のいろは。
この傷は薬剤を塗って包帯を巻くようにして治癒してゆく外傷とは違います。
また心理的外傷に至ってはそのひとの生涯が傷によってずっと支配されてしまうのです。
アメリカ合衆国でベトナム帰還兵・イラク帰還兵たちが心的外傷によって帰国後に自殺しています。
これは本当に深刻な問題です。
人間の魂は過酷な現代戦には耐えられないことの証左。
武勲を得て英雄になったアメリカン・スナイパーは帰国後に異常行動をします。
これもまた傷のため。
陰惨な事件や事故の記憶。
DVや様々なハラスメント被害。
いつ被害者になるか分からない生活を私たちはしています。
現代というのは見かけよりも狂気に覆われているのです。
会社・職場・学園で頑張りすぎてしまう人も傷人間にならないための対策を充分にしなければいけません。
暗い話ばかりで恐縮です。
祝祭的なファンク音楽にこの題材を持ち込んだハマケンは神だと想います。
魂から絞り出すシャウト。
ハマケンの身体にジェイムズ・ブラウンがノリ感染ったのです。
傷だらけのジェイムズ・ブラウン
在日ファンクに引き継がれたもの
きず 化膿止めでもダメみたい
きず ならばガーゼでホーミタイ
ずき 寝ても覚めてもなおらない
きず 憧れのその包帯
Baby つけてほしいの
きずを もっと
きずをもっともっとつけてほしいの
もっともっと
出典: きず/作詞:Kenta Hamano 作曲:Kenta Hamano
危ない面は承知でも傷に惹かれる気持ちがうずく。
これは社会的にはほぼアウトローみたいな音楽家には抗えない魅力に映るのでしょう。
困ったものです。
そもそもジェイムズ・ブラウンは私生活ではアウトローの中のアウトローですもの。
いくら傷を負ってもJBはへこたれなかったしその傷が勲章になっていたなと想い返します。
もっともっとという際限のない欲望に身を任せるのはファンク音楽に宿る本能がなす業です。
捨てて綺麗になってゆくのではなく拾って着飾るのが彼らの流儀。
このスタイルや伝統は在日ファンクにも息づいているのです。