「ハナウタ~遠い昔からの物語~」の正体
2009年4月29日発表、エレファントカシマシの通算19作目のアルバム「昇れる太陽」。
このアルバムに収録された「ハナウタ~遠い昔からの物語~」の歌詞を解説いたします。
もともとはサントリーのCMのために書き下ろされました。
CMソングという事情を抜きにしても名曲といえるので30周年記念ベスト盤にも収録されます。
悠久の歴史を持つ地球規模の背景を持ちながら男女ふたりの愛を歌い上げました。
この歌詞には宮本浩次の人間哲学のようなものがぎっしりと詰め込まれています。
森羅万象の様々な存在を感覚で確かめながらパートナーへの愛を歌うのです。
初期のエレファントカシマシは宮本浩次の生活圏内の話題を歌にしてきました。
そこからより分かりやすいドラマを紡ぐようになってスターダムへのし上がります。
さらにこのユニバーサルミュージック時代では深遠で壮大なラブソングを好んで発表しました。
「ハナウタ」もこの流れの中で発表された名曲のうちのひとつです。
宮本浩次がより懐が広いアーティストに成長したことを立証します。
初期からバンドを応援してきたファンにはまさかここまでバンドが壮大なテーマを追うとは考えられません。
非常に心地よいサウンドでもあるので多くの人に訴えるところがあるでしょう。
それでは実際の歌詞をご覧ください。
地球が奏でる音楽
太古から引き継いだストーリーとは
遠い昔からの物語
波にきらめく泡つぶだった俺たち
生まれたままのこの心 風に乗り 光る海の音
永遠のメロディー そう感じた
出典: ハナウタ~遠い昔からの物語~/作詞:宮本浩次 作曲:宮本浩次
歌い出しの歌詞になります。
登場人物はオレと愛する君のふたりです。
その他に様々な自然現象が歌詞の中に登場します。
ひとつひとつの描写のスケールの大きさがこの曲の雰囲気を方向づけているのです。
また冒頭に現れる物語というキーワードが大事な役目を果たします。
この物語はフィクションとはいえ現実の歴史に裏付けられたものです。
太古から連綿と受け継がれてきた記憶というものを想定します。
ユング的な集合無意識に近いものかもしれません。
人類がずっと共同で今日まで手渡しで受け継いできた物語というものを歌うのです。
イマジネーションと永遠と
オレはその記憶や物語を海や風という自然の風物を通じて感じ取ります。
ストーリーという言葉で一般的に想起するようなイメージが当てはまるものかは怪しいです。
それでもオレは自然に囲まれているうちに地球が奏でる音楽を聴きます。
その音楽に乗せられた歌詞のようなものをオレは聴き届けるのです。
オレはこの音楽に永遠というものを発見します。
永遠というものについて私たちはその一端に加わっているのです。
しかし個人では永遠を見届けることはできないでしょう。
オレにしても現実に永遠に生き続けることは不可能です。
しかし私たちには想像力という領域があります。
このイマジネーションの力を借りてオレは永遠を知るのです。
そして記憶や物語というものも永遠なるときをベースにしている存在であります。
宮本浩次の感性のスケールの大きさに圧倒されるでしょう。
他に類を見ないような歌詞が書けるのがこの人の強みです。
もとからの才能もあるのでしょうが、読書の鬼ですから勉強しながら行き着いた領域のように思えます。
もうこの頃から宮本浩次は人間に対する哲学をもとに歌詞を書くようになったのです。
君に贈る愛の歌は
愛の表現は共有できるから
こうして365日の音を集めて
「これはオレからの贈り物だよ」っていえたら
一瞬でつながるこのときめきの思いは
ふたりの時行き交うメッセージ
出典: ハナウタ~遠い昔からの物語~/作詞:宮本浩次 作曲:宮本浩次
とてもスケールが大きい話題から始まったこの曲はラブソングとして収束します。
自然現象の奥深い背景を持ちながら男女の愛情の話題をするのです。
オレは地球上の森羅万象が起こす毎日の奇跡を君にプレゼントしたいと願います。
君への愛情というものの深さや大きさというものが分かるでしょうか。
実際に愛をこのようにして提出されたらちょっとポカンとしてしまうかもしれません。
何せ私たちは生活圏内の中で愛を発見したり育んだりして生きています。
一年中、毎日起こる生活の中の言葉であれば理解できる自信もあるでしょう。
しかしオレはさらに広い半径に行き渡っている物事すべての奇跡を君にあげたいと願うのです。
ただオレにはこの愛の表現が君にもすぐ分かってもらえるという自信があります。
なぜオレはこうした愛の表現に確信を抱く根拠を知っているのでしょうか。
自然や環境と私たちの生活
私たちは目の前の出来事ばかりに意識を奪われがちなところがあります。
しかしそんな私たちでもあらゆる自然現象に囲まれて生きている事実は曲げようがないです。
無意識下に捨象しがちな風景ですが、誰でも毎日自然から受け取るものを糧にしているでしょう。
日々、私たちは天候を気にします。
風の強さはどうだろうか、雨の心配はないかなど環境というものをしっかり意識しているのです。
こうした日々のルーティンは普通すぎるからこそあまり意識にのぼりません。
しかし私たちが自然の一部であるという事実は誰にも否定できないでしょう。
オレは君だって同じように自然の恩恵を生きていることを当たり前に知っています。
君はオレからの奇跡の贈り物を実際に手にすることができたらきっと感激するはず。
そんなオレの確信というものはあらゆる雑音にもかき消されないものです。
もしそうした奇跡の贈り物ができるのならば、ふたりは一瞬で分かりあえると固く信じます。
ただ、実際に自然というものをパッケージングすることは至難だとも感じているのです。
だからこそ憧れるメッセージのやり取りだとオレは考えています。