CLEARな世界観と歌詞の関連性は?
ここまでCLEARという言葉が持つ世界観について考察しました。
その世界観と歌詞はどのように関連しているのでしょうか。
湧き上がる「透明なもの」
想像とはいつも違ってる
なにもかも完璧 とはいかないけど
心の底に泉があるの
どんなに落ち込んでもまた
透明なもので満たされていく
出典: CLEAR/作詞:坂本真綾 作曲:水野良樹
冒頭で描かれるのは想像している理想の自分とのギャップに悩む人物です。
MVで窓から外を眺める少女の表情も何やら物憂げでした。
人の理想は常に理想であって、理想が現実になることは稀です。
全てを完璧にこなすことは、非常に難しい。
完璧な自分になれないということに落ち込むこともあります。
しかし、そんなときにも「透明なもの」が心の底から湧き上がります。
「透明」という言葉はタイトルの「CLEAR」と関連しています。
この「透明なもの」とは一体なんなのでしょうか。
ここでは答えは明確になっていません。
あえて「名付け」をしない
これって これって なんていう気持ちなの
熱くて 痛くて くすぐったくて 涙が出そう
出典: CLEAR/作詞:坂本真綾 作曲:水野良樹
サビの部分で「透明なもの」が描写されます。
しかし、ここでも明確な答えは出ないのです。
人が感情を明確に捉えるために「名付け」を行います。
他者に対して、じりじりと焼けるような感情を持つことがある。
人はそれに「怒り」という名前をつけて理解します。
ある他者を独り占めしようとしたり、自分を独り占めしてほしいと思うことがある。
人はそれに「好き」という名前をつけて感情の正体を把握します。
このように、人は名前をつけることで初めて感情を理解できるのです。
しかし、この歌詞ではあえて「名付け」をしません。
「不安」の一言では片付けられない。
「期待」の一言では表現しきれない。
「理想の自分」に対する感情はそれだけ複雑です。
その複雑さを「名付け」をしないことで表現しているのです。
「CLEAR」なことだけが大切じゃない
ここからわかることは「透明なもの」は決して「CLEAR」ではないということです。
「不安」「怒り」という明確な言葉では表せない感情。
この曲の中には「CLEARなもの」だけではなく「CLEARじゃないもの」も織り込まれているのです。
自由ってなんだろう
風って 鳥って 私より自由かな
翼がないなら走ってくわ 行きたいところまで
できるよね
Going on!
出典: CLEAR/作詞:坂本真綾 作曲:水野良樹
言葉にできない、漠然とした「透明なもの」を心に抱えて、どこにいくのでしょうか。
そんなとき、視線は空へと転じます。
空には風が吹き渡り、鳥が羽ばたいています。
MVにも無数の鳥が飛行するシーンが差し込まれていましたね。
そんな風や鳥を見て、自由を思います。
自分の背中には空を自由に飛べる翼がない。
しかし、発想を変えてみれば、鳥は「空を飛ぶことしか選べない」のかもしれません。
地面を歩く私たちは鳥をみれば自由に羽ばたきたいと思います。
鳥も同じように、地面を歩く私たちと見て「地面を自由に歩きたい」と思っている。
そう思えば、翼がなくても自由に走ることはできます。
複雑な感情を抱いたまま、人は人生を駆け抜けていくのです。
自分とは何か
つい他者を見てしまう
他の子にあって私にないもの
わかってはいるけど つい比べちゃうよ
答え合わせはもうしたくない
みんなと同じじゃなくても
私にできること見つけたいの
出典: CLEAR/作詞:坂本真綾 作曲:水野良樹
自分の存在を考えるときに、比べるのは「理想の自分」だけではありません。
それは隣にいる「他者」です。
私たちは自分を認識するときについつい他者との違いに目がいってしまいます。
私にできないことを、あの子は簡単にこなせている。
私が持っていないものを、あの子はたくさん持っている。
こんな風に他者と比べて自分は劣っていると自覚してしまいます。
それとは逆に、あの子は持っていないけど、私は持っている、と優越感に浸ることもある。
自分が何を持っていて、何を持っていないかは他者がいないと把握できないのです。
つまり、他者がいないと、自分の存在を認めることができない。
そんな不安に悩まされることもあります。
しかし、そこからも解放されなければならない。
他者とは関係のない、自分だけのアイデンティティを見つけたい。
そんな強い意志がこの部分からは読み取れます。