子供

日本語ロックの家系図

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山下達郎は1975年シュガー・ベイブの一員としてナイアガラ・レコードよりデビューしています。

シュガー・ベイブには大貫妙子伊藤銀次などもおり、JPOPの歴史において重要なバンドの一つです。

そしてナイアガラ・レコードの主宰者は2013年に他界した大滝詠一

大滝詠一といえば松田聖子の「風立ちぬ」などの作曲家として知られています。

その彼が細野晴臣松本隆らともに所属していたバンドが1969年結成の「はっぴいえんど」です。

当時はロックは英語でなければ作れないといわれた時代でした。

そうした中で敢えて日本語歌詞によるロック、日本語ロックを標榜して活動したの「はっぴいえんど」。

彼らの1stアルバム「はっぴいえんど」は日本語ロックの最初の作品です。

ここから戦後のJPOPの歴史が始まりました。

つまり大滝詠一らはJPOPの父とも呼べる存在で、山下達郎はその直系の子供の一人と言えます。

鉄腕アトムと手塚治虫

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アトムは手塚治虫の漫画、そしてアニメの「鉄腕アトム」の主人公です。

「鉄腕アトム」の漫画は1952年から1968年にかけて少年誌に連載。

その最初のアニメ1963年に日本初の長編TVアニメシリーズとして放送されました。

制作は手塚治虫が設立した「虫プロダクション」。

このときの平均視聴率が25%最高視聴率40.3%をあげています。

原作者の手塚治虫は1946年から亡くなる1989年まで常に第一線で活躍、多くの作品を世に送り出しました。

現在の日本漫画、日本アニメの源流であり、「日本漫画の父」「日本アニメの父」と呼ばれることもあります。

漫画、アニメにおいて数多くの名作を世に送り出した手塚治虫。

好きな作品といえば人それぞれあるでしょうが、代表作といえば「鉄腕アトム」となるでしょう。

この山下達郎の「アトムの子」はその手塚治虫の死を悼み、捧げられたトリビュート・ソングです。

職人

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この曲は1991年発表のアルバム「ARTISAN」に1曲目に収録されています。

手塚治虫が死去したのが1989年、その訃報に接しすぐにトリビュートソングを制作を思い立ちます。

しかしなかなか曲のイメージがまとまらなかったのでしょう。

構想がまとまったのがアルバム制作の締め切り10日前。

そのわずか10日で一気にレコーディングしたというエピソードもあります。

そしてこの曲の歌詞カードには「キングO.Tに捧げる」を意味する英文の献辞を添えました。

手塚治虫は子供向けの安易で稚拙な娯楽と蔑視されていたマンガを日本を「文化」にまで高めた人物です。

彼がいなければ世界中に愛される日本マンガの今はなかったでしょう。

このアルバムタイトルの意味は「職人」。それは当時の安易な芸術志向への反発からと言われています。

そしてそのアルバムの冒頭に敢えてこの曲を据えました。

「テクニックに走る」「技巧に頼りすぎる」など時として技術はすぐれた表現の妨げのように言われます。

また「職人根性」という言葉があるように芸術家に対して職人が格下のように思われることすらあるのです。

しかし一方で優れた職人の技による作品は魂が宿るとも言われます。

そうした作品は時代を超えて芸術作品として評価され、人々に愛されています。

そう手塚治虫の作品のように。

このアルバムのタイトルは優れた職人は優れた芸術家でもあるという想いもあるのかもしれません。

アトムの子」はその後CMなどにも使われ、シングルも発売。

LIVEなどでも定番の曲として広く知られるようになります。

アトムの子

僕ら

どんなに 大人になっても
僕等は アトムの子供さ
どんなに 大きくなっても
心は夢見る子供さ
Fe-Fe-Feel it! Fe-Fe-Feel it!

出典: アトムの子/作曲:山下達郎 作詞:山下達郎

漫画「鉄腕アトム」1952年から1968年にかけて連載されています。

そしてTVアニメ「鉄腕アトム」1963年から2003年まで何度かシリーズとしてアニメ化されています。

再放送まで含めると放送された回数は数え切れません。映画化もされています。

幅広い世代、多くの人に親しまれたキャラクター、それがアトムです。

その中で山下達郎が最初にアトムを見たのはいつかはわかりません。

ただし最初のアニメ版アトム放送時、山下達郎は9歳。

原作マンガかアニメの第一シリーズが最初だろうと思います。

彼を始め、幅広い年代の多くの子どもたちに影響を与えた作品、それが「鉄腕アトム」です。

そう、「鉄腕アトム」の漫画やアニメの読者、視聴者そのすべてがぼくらなのです。

手塚哲学

鉄腕アトムは主人公のロボット「アトム」が活躍する物語です。

そのストーリーはよくある勧善懲悪の作品とは一線を画しています。

舞台は人工知能を搭載したロボットたちが人間の下で働く科学文明が発達した未来世界。

アトムは我が子を亡くした天才科学者によって子供の代わりとして作られました。

最初は可愛がられますが、しかし成長しないということで棄てられます。

その後心優しい別の科学者に拾われ、育てられるのです。

人間の我儘によって作られ、棄てられたロボット、それがアトムです。

ロボットと言ってもアトムには知能も感情もあります。

棄てられた経験がありながらも、彼は人間を憎むことはしません。

そして時に人間を救うために敵と戦うこともあります。

しかし敵であってもときに事情があり、敵対せざるえない理由があります。

ですから敵イコール悪とは言い切れない場合もあるのです。

アトムはそのために苦悩することも少なくありません。

作品には多くのエピソードがあり、様々な問題提起がなされています。

大人でも答えが出せないような科学批判文明批判を展開する場合もあります。

そして主人公のアトムは常に読者、視聴者である子どもたちと同じ目線で問題を考え、悩むのです。

安易な解決を提示することはありません。

超高性能なアトムですが、力だけでは本当の意味では解決しない問題がいくつもあるのです。

これは手塚治虫の作品の多くに共通するスタイルで「手塚哲学」と呼ぶ人もいます。

幼少期から青年期にかけてそうした手塚作品に触れたことで成長してきたと思っている人も少なくありません。

山下達郎もそうした一人なのでしょう。だからこその「アトムの子」です。

この曲は決して誰かからのオファーで作られたわけではありません。

手塚の訃報を知った彼が自らの意思で作り、自らのアルバムの一番最初の曲として発表したものです。

つまり「アトムの子」は山下達郎が手塚治虫にむけた個人的な弔辞なのです。

捧げる

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