ゆうべ 枯れてた花が
今は 咲いているよ
出典: さよならをするために/作詞:石坂浩二 作曲:坂田晃一
花が枯れている…これは一度は花が咲いたことを表しています。
誰も見ることが無かったつぼみを経て開いた花。人目を引き付ける花の姿は美しさと幸せの象徴です。
ただし、生きている花の命は永遠ではありません。いつかは命を終えるように花びらは散っていきます。
長くはない満開から花びらが散りゆくまでの時間。再び誰も見ることが無い姿に花は変化していきました。
枯れてしまった花は本来であれば再び咲き誇ることはありません。
枯れて散った花びらを集めてもどこか虚しさが残るだけです。
「さよならをするために」では枯れた花が再び咲きました。
昨夜は枯れた姿を見せていた花は作詞者の心なのでしょうか。
君に渡す過去の幸せに安心したように息を吹き返す心。
本当なら咲くはずのない枯れてしまった花が再び咲きました。
一度は失ったものを取り戻した心は上を向き始めたようです。
そして「さよならをするために」君に渡すものはまだ続きます。
知って欲しい…もっと深く
隠さない…涙の理由も
過ぎた日の 悲しみも
みんな 君にあげる
あの日 知らない人が
今は そばに眠る
出典: さよならをするために/作詞:石坂浩二 作曲:坂田晃一
自分の過去の微笑んだ時間を君に知ってもらえば幸せが共有できます。
でも君に知って欲しいのは、微笑んで幸せの中にいたことだけでは無いようです。
君に知って欲しいのは悲しみに沈んでいた時間。涙を流したことも知って欲しい…。
涙を流すような悲しい出来事があったことを、君に隠すことは出来ません。
悲しい過去はわがままや身勝手な自分が作った過去。
辛い悲しみの中で流した涙の理由を君は受け止めてくれました。
そばにいるのは悲しみを受け止めてくれる君。辛い過去の日にはいなかった人です。
傍らにいる君が作ってくれるやすらぎの時間。
悲しい過去を忘れさせてくれる君の隣は夢さえも優し気です。
欲しかったのは…安定
知ってくれた君と作る時間
昇る 朝陽のように
今は 君と歩く
白い 扉をしめて
やさしい 夜を招き
出典: さよならをするために/作詞:石坂浩二 作曲:坂田晃一
悩みを抱えて独り過ごす夜。独り迎える朝には、その悩みや苦しみは続いたまま。
でも独り迎えた朝はもう終わりました。隣にいるのは朝の時間を一緒に過ごす君。
明けない夜はありません。太陽が昇れば新しい日が始まります。
太陽が昇って朝がくるのは当たり前なこと。その当たり前が毎日続くことで幸せを作ります。
意識をしないと気が付かない当たり前の幸せ。君と一緒にいることで新しい幸せを知ることが出来ました。
人目を気にしないで太陽の下を歩く2人。何気ないいつもの風景も輝いて見えます。
同じ幸せを感じながら同じ方向を見て歩く2人。そしてまた訪れる一日の終わり。
今の2人の心は『白』。何色にも染められていない扉の前に2人が立ちます。
太陽が沈んだ夜は時間の進み具合も静かで、暗闇は2人を包み込む優しさ。
独りで抱えた冷え切った心はここにはありません。
2人が作る2人だけの時間は2人の心に温もりを授けました。
自分の恋を俯瞰するなんて…
ここまでの歌詞に出てきた登場人物は2人のはずです。
1人は君に語り掛ける作詞者。もう1人はこれまでの幸せと悲しみを受け止めてくれた君。
作詞者と君の2人の世界で歌詞は進行しています。
でもこの後の歌詞に出てくるのは、もう1人の人物に語り掛けるフレーズです。
冷たい心を抱えたのは…誰?
今のあなたに きっと
判るはずはないの
風に残した過去の
さめた愛の言葉
出典: さよならをするために/作詞:石坂浩二 作曲:坂田晃一
歌詞に出てきたのは『あなた』と呼ばれる人物です。
ここまでは君を愛ある上から目線で呼びかけていた作詞者。
それと比べるとどこか突き放した呼びかけの『あなた』。
過去になった『あなた』とのことを俯瞰をしているようにも感じます。
実体験からのインスパイアなのか?と想像を掻き立てられますね。
まだ『あなた』が作詞者を忘れられないことは十分判っているのでしょう。
『あなた』が深く傷ついたことを知りながら、別れを決めた作詞者が伝えたい贖罪もしくは心残り。
別の人を選んだ作詞者は幸せを手に入れました。
作詞者自身も恋の敗者となった人を、心の中から完全に消すことが出来るのでしょうか…。
作詞者と君が幸せをつかむために投げかけた別れの言葉。
2人と1人の心の動きを冷静に見ている作詞者の表情が浮かびます。
巧みな恋の駆け引きの結果生まれた歌詞という解釈をしたら、恋の敗者にとってはただ残酷なだけ。
それでも『あなた』への手紙のように組み込まれたこの歌詞が無ければ「さよならをするために」は完成しません。
別れた『あなた』が別の幸せをつかむことを祈る作詞者の思いがここにあります。
世間ではスキャンダルと言われても、当事者たちにとっての愛は真剣でした。
中途半端な愛では無いことを聴く側も願いたくなる歌詞は、作詞の巧みさの結果です。