重ねる肌合図よ
何も分からなくなるわ
ほら ほら ほら
もう消えてる

出典: 誰誰誰/作詞:アイナ・ジ・エンド 作曲:アイナ・ジ・エンド

”重ねる肌”というのは実感を持った行為なので、現実に戻る、正気に戻ろうする例えです。

それを合図に我に帰って正気になってみたら、もう何もかもが分からなくなっています。

いつもそこにあったはずの正しい自分は、いつの間にか消えていなくなってしまっている…。

「私なんであんなことしちゃったんだろう!」って、後悔に苛まれることありますよね。

自分を責めて、自己嫌悪して、でももう取り戻せないという絶望感

しかし、”ほら ほら ほら”という表現から、そんな自分ですら客観的に冷めたい目で見る様子を感じます。

「そんなことすれば消えちゃうって分かっていただろう?ほら、消えちゃった」と言ってみせる人格。

完全に崩壊した人格

平げるつもりよ
人差し指は不味そうです
親指から攻めて 一つ一つ
とんだ最悪?どちら様かな

出典: 誰誰誰/作詞:アイナ・ジ・エンド 作曲:アイナ・ジ・エンド

狂気を通り越して恐怖すら感じるパートです。

(自分の手を)親指から食べて、人差し指は不味そう、でも全部平らげるわ、という精神崩壊のような状態。

そんな様子を最悪と誰かが非難するけれど、非難しているあなたは何者(何様)ですか?と逆に問いかけます。

つまり、あなたにも私にもそれぞれの狂気があって、その物差しで他人の善悪を決められる?ということです。

誰かから見れば悪いことであっても、本人にはそこに同情するものがあるかもしれない。

善も悪も表裏一体で、その時々の状況や人との関係性の中でどちらにもなり得るものなのです。

誰も傷つかない傷つけない世界を願うけれど、そんな世界が本当に素晴らしいですか、と問われているようです。

なぜ顕微鏡?

この楽曲は、善悪の基準が曖昧となって混沌としたネットあるいは精神世界を歌っています。

何を信じていいかわからない世界で、具体的に登場する顕微鏡というのは、小さな世界の象徴です。

顕微鏡は、目では見えない世界を覗き見る道具です。

目では見えない世界は自分自身の内面を表していて、それを覗くというのは内にこもるということです

原型の意味とは?

何の装飾もないただの言葉を、”原型”と表現したのではないでしょうか。

原型をどう使うかによって、誰かを癒やす薬にもなれば、傷つける毒にもなります。

もっと言えば、薬も使い方を間違うと毒にもなってしまいます。

手術のときに使われる麻酔は、痛みを取り除く薬ともいえますが、麻薬の一種でもあります。

使い方を見誤ると、人を不幸にすることもできます。

つまり、それくらい原型というのは繊細で危ういんだということではないでしょうか。

何も分からなくなる理由

自分が信じている価値観は世界の基準ではないということです。

誰かにとって正しいことも、違う誰かにとっては正しくないことは往々にしてあります。

その一番分かりやすい象徴が、争いです。

一見、悪い者と良い者に見えても、それぞれの信じる正義があり、正義同士がぶつかると争いが起きます。

それぞれの立場に立ってみれば、それぞれに同情できる部分があり、良い悪いなんて簡単に決められません。

だから、何も分からなくなるのではないでしょうか。

強烈なインパクトのMV

狂気に満ちた映像

これほど狂気に満ちて精神に訴えかけてくるMVもなかなかありません。

それと同時に、アイナ・ジ・エンドというアーティストが、天性の表現者であることを痛感します。

歌詞にはない、行間で発する声や笑い・表情の一つ一つにある種の異常性を感じます。

狂ったように笑い、壊れたように地下牢を彷徨う、最大級の賛辞として正気じゃありません。

このMVを観るかどうかで、楽曲への印象はまったく違ってくるはずです。