歌がリリースされた時代の背景
経済成長を続ける日本
渡辺真知子7枚目のシングル曲として本曲が発売されたのは1980年。
日本経済は右肩上がりの成長を続けていました。
ゲーム&ウォッチやルービックキューブ、チョロQ等のおもちゃが日本で発売されたのもこの年です。
一方モスクワオリンピックのボイコット問題など、世界的には決して明るい話題ばかりではありませんでした。
そんな世相背景を持つ年の春にCMソングとしてお茶の間に流れたのが「唇よ、熱く君を語れ」。
伝説的歌番組『ザ・ベストテン』では3週連続第2位を獲得するヒットソングに。
1970年代は事務職などで若い女性の社会進出が急速に伸びた時代でもあります。
日本の高度経済成長を専業主婦として支えてきた女性達が新しい道を歩み始めた転換期の歌ともいえるでしょう。
女性像の転換
そんな時流に乗るようにして発売されたこの曲。
歌の持つ軽快な雰囲気は、まさしくそんな時代の女性像にぴったり。
自由で元気で前向きな女性を感じることができるでしょう。
作詞者の東海林良さんは"女性に自分自身を語ってほしい"という思いを歌詞にのせたと言っています。
男性の陰で自分をなかなか前に出すことができなかった女性達。
それどころか目立つことは好ましくないとまでされてきた閉塞感のようなものもありました。
でもそんな風潮はもう古いんだと言わんばかりの歌詞でこの歌は綴られています。
少し羽目を外すくらいの女性のほうが、かえってかわいいと思われるくらいになっていたのでしょうか。
素のままの自分をさらけ出し、ありのままに生きる。
女性がいきいきと輝き出した時代のスタートです。
曲中に散りばめられた言葉の端々に、バブル前夜の匂いも感じる歌詞を紐解いていきましょう。
CMソングとして輝く
化粧品メーカーCMソング揃い踏み
商品をイメージする曲をCMに盛んに起用し始めたのは1975年頃から。
ニューミュージックといわれる音楽ジャンルでヒット曲が生み出されるようになったことも要因のひとつです。
社会進出を果たした女性向け商品が沢山世に出回るようになり、化粧品も次々と新製品が発売されました。
各化粧品メーカーによるキャンペーン合戦が繰り広げられ話題の的に。
CMソングが大流行し時代を彩る華やかな女性達がTV画面を賑わせました。
「唇よ、熱く君を語れ」が起用されたのはカネボウのレディ80というキャンペーンの為です。
色鮮やかな口紅を宣伝するためのイメージソングとして大抜擢。
ちなみに当時の他メーカーのCMソングにもヒット曲が沢山あります。
資生堂では竹内まりやさんを起用し「不思議なピーチパイ」を。
ポーラ化粧品は庄野真代さんの「Hey Lady 優しくなれるかい」を使用しました。
どれも記憶に残る印象的な名曲ばかりですね。
キャンペーンガールはあの女優
健康的でありながらお色気も十分なひとりの女性が曲に合わせ画面いっぱいに登場します。
カネボウのキャンペーンガールに選ばれ鮮烈なデビューをはたした松原千明さんです。
このCMに出演以降、女優やタレントとしてマルチな活躍を成し遂げました。
CM画面には、かわるがわる色んなスタイルの女性達が現れ元気よく足踏み行進をしていきます。
そして頭に手をかざし敬礼ポーズをとって立ち止まる姿はとてもセンセーショナルでした。
画面に繰り広げられるはつらつとした姿は歌詞に描かれている女性像そのものです。
ひとつの形におさまらない変幻自在な気まぐれさを明るく表現しています。
バブルの前兆を感じさせる歌詞
前述したとおりこの歌がリリースされた1980年、日本はとどまるところを知らない経済成長を続けていました。
これから迎えるバブル期への序章の時代です。
そのため歌詞に使われている言葉にも、バブル期への片鱗を感じさせるワードが散りばめられています。
南風は女神 絹づれの魔術
出典: 唇よ、熱く君を語れ/作詞:東海林良 作曲:渡辺真知子
たとえば絹づれの魔術。
衣擦れではないところがポイントです。
絹という最高級の繊維をまとうことは最上の女の証。
絹で表現するところに時代による価値観の違いを感じさせます。
去年越しの人は シルエット シャドー
出典: 唇よ、熱く君を語れ/作詞:東海林良 作曲:渡辺真知子