志半ばの友との別れ
2017年2月、安本さんはグループメイトの松野莉奈さんが亡くなる体験をしています。
安本さんは、インタビューなどで松野さんへの友情を語っていました。
松野さんは18歳でなくなりました。これからも10代の輝きを永遠に刻んでゆきます。
自分の苦しみに翻弄されるうちに、友は旅立って自分はこの世に残されてしまった。
「取り残されたくなくて」2つ目の意味、それは残されたものとして失意と考えられないでしょうか。
また、「果たせぬ想い」には親友と一緒にこれからの人生を旅できなくなった悲しみさも想像できますね。
この部分は曲の中でも重要な部分だと思っています。
安本さんの大きな心の変化を描いている、と解釈できるでしょう。
歌の後半は失意からの転換を思わせる
苦しみは捉え方次第
ずっと迷い続けた寄り道の毎日で ほんとの自分がわからなくて悩んで 大切な私だけの手放せない宝物 そっとぎゅっと抱きしめられたらいいのにな
出典: TSUBOMI/作詞:安本彩花 作曲:安本彩花
ほんとの自分がわからない、自分探しをしているということ。
それは、現状に欠乏感を感じている状態とも言えます。
以前、子供は天動説で世界をみているという話を聞いたことがあります。
子供は、自分が中心にいて、自宅があって、街、国、地球がある。
不幸も幸福もすべて外側から「もたらされる」と考えるということです。
しかし、例えば数人で同じ音楽を聞いても全く同じ感想というのはありえませんね。
本当は、幸福も不幸も自分の捉え方でしかない。
安本さんは、前段で描かれた葛藤や、悲しい離別などを経験してこの事実に向き合ったのではと思うんです。
大切なものに気づく瞬間(とき)
そう考えると、ここで出てくる「宝物」の意味がわかってきます。
自分がそれまで苦しい、乗り越えたいと思っていた苦しみそのものを指しているように思えるのです。
困難も宝物として受け入れ前に進む。それがどんなに苦しいことでも受け止める。
そして、苦しみから希望がうまれる瞬間を表現しているのではないでしょうか。
私自身、自分にとってつらい過去が自分をポジティブな方向へ導いてくれたと気づくことがありました。
この歌詞からは、人生を受け入れ愛する決意をした安本さんの人間的成長が感じられます。
一人のアーティストとしての未来を感じさせるラスト部分
変化した「花」の意味とは
ずっと走り続けたため息な毎日で 擦り傷癒して諦めたくないんだ 私には私だけの代わりのない誰にもない いつかいつか夢の花咲きますように ずっとずっと綺麗に咲く花になりたい
出典: TSUBOMI/作詞:安本彩花 作曲:安本彩花
擦り傷を癒す、とは傷をきれいに整えて「なかったこと」にする行為ともみることができます。
安本さんは、自分の痛みと真正面から向き合ってゆく覚悟をしたのでしょう。
1番の歌詞からみるとかなり大物の視点というか、成長を感じる内容になっています。
ここで、再び「花になりたい」という言葉がでてきます。
ここまでの場面で、花になりたい葛藤、時間的なつらさ、友人の死という大きな波を経験した安本さん。
「自分が今まで外に求めいていた充実や希望って実は自分のハートにあるんだ」
そんな安本さんの気づきを感じさせます。
曲中での「花」の持つ意味が、最初の意味から大きく変化していると解釈できます。
「長い時間の中で、私は必死で花になろうとしていた。けれどその必要はなかった、私は最初から花だったんだ」
という安本さんのメッセージが伝わってくるようです。
少女から「アーティスト」安本彩花としての飛躍
この曲は、直接的な表現を使わずに人生観を絶妙に表現しているといえます。
安本さんのワードチョイス、詩的表現に卓越したセンスを感じます。
人生においては、痛みを勢いで乗り越えるという選択もできます。
しかし、この曲には痛みとともに歩もうとする一人の女性の勇気を見ることができます。
安本さんの包容力、アーティストとしての器の大きさを感じぜずにはいられません。
動画のコメント欄にも、リスナーの方が歌詞に自分の痛みを重ねている内容のコメントがありました。
個人的な痛みを作品づくりで咀嚼して、同じ痛みを共有する人を癒している安本さん。
彼女は本物のアーティストだな、と感じさせてくれる名曲です。
安本さんが曲を通じた告白、とは胸内の深い苦しみとそれを乗り越える決意といえそうです。