「夢の中へ」といえば井上陽水さんと斉藤由貴さんを思い出すのはヌーの親御さん世代でしょう。
井口さんは親御さんの影響もあって、懐かしいフォークソングも聴きなじみがあるようです。
常田さんはロックやクラシックなど、J-POP以外の音楽を好んで聴いて育ったタイプ。
逆にヌーというバンドのために腰を据えてJ-POPを聴き込んだそうです。
それ以前にも、井上陽水さんのステージを偶然見てファンになったという逸話があります。
トリビュートアルバムでヌーが「飾りじゃないのよ 涙は」をカバーしたのはまさにご縁ですね。
そんな経緯もあり、作詞担当の常田さんが井上陽水さんをリスペクトしていることは確かです。
ただ、この歌詞についてはもっと他の影響もあるかもしれません。
いずれにしても男性は「指輪を外して現実を忘れよう」と女性に対して呼びかけています。
流行りのナイトプールではない?
「NIGHT POOL」は平易で最小限に抑えられた歌詞まで、ミニマル音楽のようです。
いよいよタイトルそのものが登場する部分を見ていきましょう。
実際のプール?それとも…
きらめくネオンが
溶けて、NIGHT POOL
出典: NIGHT POOL/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
ナイトプールにネオンの明かりが映るという光景が描かれています。
それだけでは「だからどうなのか?」がさっぱりわかりませんね。
お互い別のパートナーがいる男女がナイトプールでデート中…でしょうか。
この曲の収録アルバム「ランデブー」は2017年10月に発売されました。
ちょうどナイトプールが流行った年ですが、常田さんはブームを知らずに曲を作ったそうです。
むしろ自分のほうが先!
そんな発言もされていましたが、実際にはブームになる前からナイトプールはあったようです。
ただ、常田さんがブームに乗っかったわけではないことは確かでしょう。
そうなるとこの歌詞で描かれているのは、実際のプールとは限らないかもしれません。
ネオンの明かりが渦巻く夜という可能性もあるでしょう。
その光がまるで液化するかのごとく、とろける出来事が起きている…という話にも受け取れます。
それともやっぱり実際のプール?あるいはプライベートプール付きのお部屋でしょうか?
このあたりはご想像におまかせしたまま話を先に進めます。
ウォン・カーウァイ監督
指輪もナイトプールも唐突に登場したイメージですが、さらにインパクトがあるのがネオンです。
なぜ2人はネオン輝く繁華街で会っているのかというと、自宅は無理だから…かもしれません。
そもそも常田さんはどうしてこのようなイケない恋を情感たっぷりに描いているのかも謎ですね。
実体験がもとになっているとは考えにくいでしょう。
どうやらこの曲のヒントは、ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の香港映画にあります。
ミニシアター系好きなら「恋する惑星」「天使の涙」「ブエノスアイレス」などが懐かしいですね。
ゆらゆらするハンディカムやスローモーションなど独特の映像美がおしゃれと話題になりました。
現実を描いているはずなのに、どこか夢の世界のような浮遊感にあふれた映像になっています。
もしかしたら先ほどの「夢~」という歌詞は、この映像美と関係があるのでは?と考えらえます。
映画「花様年華」
ウォン・カーウァイ作品のなかでも注目したいのが「花様年華」(かようねんか)です。
1960年代の香港を舞台に、既婚者同士の切ない恋を描いたウォン・カーウァイ監督のロマンス映画。
(中略)
『欲望の翼』の続編、『2046』の前編ともいわれている。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/花様年華
三部作の真ん中、既婚者カップルの恋という点が「NIGHT POOL」と重なります。
そしてウォン・カーウァイ作品は、夢の世界を浮遊するような香港のネオンが印象的でしょう。
実際「NIGHT POOL」は、常田さんがウォン・カーウァイ作品に触発されて作ったそうです。
言葉少ない歌詞でも、まるで映画みたいな情景が目に浮かぶのはこのためではないでしょうか。
「現実を抜け出し、ヌーの音楽という創造の世界に飛び込んで」という呼びかけかもしれません。
また「Vinyl」(ビニール)のMVでも「恋する惑星」と「天使の涙」のオマージュが見られます。
こうしたヌーのMV制作やアートワークを担当しているのがPERIMETRON(ペリメトロン)です。
常田さんも所属するクリエイティブ集団なので、総合的に作品が作られていることがわかります。
「NIGHT POOL」にはMVはありませんがつながりをたどると楽しみ方の幅が広がるでしょう。
雨のことだったの?
タイトルには、実際のナイトプール以外の意味があったことが判明します。
雨降る街よ
全てを
飲み込んでみせて
出典: NIGHT POOL/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
人気のナイトプールの情報がない状態でつけられたタイトルなので、やはり実際は別の話でした。
その答えは雨です。
ネオン街には雨が降っていました。
さらにランデブー三部作としてラストを飾る「サマーレイン」では背中越しに雨が降っています。
つまり前の曲=「NIGHT POOL」で雨が降っていたことを暗に示唆していると考えられるでしょう。
そう、アルバム「ランデブー」のラストはずぶ濡れなんです。
実際の天気が雨模様という話と、イケない恋でジタバタして涙を流す気分の両方が浮かびます。
三部作には結局「指輪・夢・雨」という3つのキーワードが以下のようにリンクしていました。
- ロウラヴ:指輪・夢
- NIGHT POOL:指輪・夢・雨
- サマーレイン・ダイバー:雨
ストレートに男女のイケないラブストーリーとして解釈すると、文字どおりの意味になります。
ただ、3つともどのような解釈もできるメタファー(暗喩)になっています。
- 指輪:現実・日常
- 夢:希望・創造(ヌーの音楽)
- 雨:天気・心・愛・ヌーの音楽
正解などなく、リスナー自身で言葉を当てはめられる点が醍醐味です。
また、常田さんの下のお名前が大希さんということで「希望しかない」という名台詞があります。
常田さん自身「ヌーの音楽にも希望しかない!」と熱い夢を抱いているのでは?と思われます。
「ずぶ濡れになるほどヌーの音楽に浸って」という解釈もできるでしょう。