二人行きつけの喫茶店にて
僕の街でもう一度だけ
熱いコーヒー飲みませんか
あの店で聞かれました
君はどうしているのかと
出典: 私鉄沿線/作詞:山上路夫 作曲:佐藤寛
彼らには行きつけの喫茶店があるようです。
電車から降りて来た彼女と笑顔を交わした後、取り敢えずお茶でも……という感じでしょう。
ふたりがいつも頼むのはホットコーヒー。
でも今はひとりで飲む日々。
マスターか、アルバイトのウェイトレス(最近あまり聞かない言葉ですね)が彼に問います。
「いつもご一緒の方、最近いらっしゃいませんね。どうなさっているんですか?」
彼女に「もう一度だけここでコーヒーを」と願うのは、まだきちんと別れ話をしていない状態でしょうか?
今は無き「駅の伝言板」
彼女に宛てた伝言は……
伝言板に君のこと
僕は書いて帰ります
想い出たずねもしかして
君がこの街に来るようで
僕たちの愛は終わりでしょうか
季節もいつか変わりました
出典: 私鉄沿線/作詞:山上路夫 作曲:佐藤寛
駅から伝言板が消えて、ずいぶん経ちます。
若い人だと、見たことも聞いたこともないという方がもう殆どなのかもしれません。
上の画像は伝言板を模した伝言メモですが、見た目は大体こんなような感じのものでした。
黒板のように横長で書くスペースがもっと多く、それぞれに時間記入欄があります。
「〇〇時間を過ぎたら消します」という注意書きがあるのはお約束でした。
携帯電話はおろか、ポケベルも留守番電話もなかった時代。
伝言板は、とても重要な役割を果たしていたのです。
そんな伝言板に、彼は彼女宛てのメッセージを書いて帰るようです。
「〇子へ 明後日水曜18時いつもの店で待つ 五郎」
あの喫茶店でもう一度熱いコーヒーを共に飲みたいと願っている彼。
きっとこのような文面だったのではないでしょうか。
さて、ふたりの関係について彼が少し語りはじめましたね。
心の中で彼女に「僕たちの愛は終わりでしょうか」と問うています。
これはやはり、別れ話もなく突然彼女がこの街に来なくなったと想像してよさそうです。
想い出をたずねて彼女がこっそりこの街にやってくる可能性を考えている点。
ここから、不測の事態で物理的に不可能になった訳ではないことが読み取れます。
電話で「ごめんなさい、もうそこには行けないわ」という会話くらいはあったかもしれません。
彼自身もその身で季節の変化をはっきり感じる今日この頃。
花屋の花で次の季節を感じていた時から、また日数が経っているようです。
行方の知れない君
僕の部屋をたずねて来ては
いつも掃除をしてた君よ
この僕もわかりません
君はどうしているのでしょう
出典: 私鉄沿線/作詞:山上路夫 作曲:佐藤寛
喫茶店でコーヒーを飲んだ後、二人はいつも連れ立って彼の部屋に行っていたようです。
ゆっくりする間もなく、彼のひとり暮らしの部屋を掃除するマメな彼女だったのですね。
そんな甲斐甲斐しい女性が、理由も告げず去ってしまった……。
「この僕もわかりません」というのは、先の喫茶店で問われたことに対する返事です。
でも実際にそう答えたかどうかはまた別ですよ。
返事の形を取って、彼女の現状が分からないことに戸惑っていることを表しています。
花屋の花→自分の体感という形で時間の経過を示唆した点。
そしてこの返答形式での戸惑いの表現。プロの作詞家は凄い!
それにしても、彼女は本当に今どうしているのでしょうね。
この街で君を待ち続ける僕
買い物の人でにぎわう街に
もうじき灯りともるでしょう
僕は今日も人波さけて
帰るだけですひとりだけで
この街を越せないまま
君の帰りを待ってます
出典: 私鉄沿線/作詞:山上路夫 作曲:佐藤寛
改札口から電車が見えるような小さな私鉄駅。
駅前から延びる、さほど広くもない道に沿って続く商店街。
夕餉(ゆうげ)のための買い物に来た主婦たちの笑い声、店主の威勢の良い呼び声。
総菜屋から流れてくる揚げ油の匂い。
勤め人の帰宅時を迎え、駅すぐ脇の踏切はひっきりなしに警報音を鳴らします。
ざわめく街の空気に目を伏せて、裏道に入り家路を辿る彼の姿が目に浮かぶようです。
この街を「越せない」というのは「引っ越せない」という意味です。
これもまた最近とんと耳にしない言葉ですね。
引っ越すこともできず、ひたすら彼女の「帰り」を待つ彼。
ますます、彼女が来なくなってしまった理由が知りたくなります。
しかしそれは解明されることなく、曲は終わってしまいました。
このシチュエーションから筆者が考え付いた4パターンを記してみましょう。
1. 彼のルーズな部分に、ある日突然冷めた(毎回彼の部屋の掃除をしていた部分から)
2. 彼に対する何らかの不満が積もり積もって、ついに限界を迎えてキレた
3. 親に勧められた縁談を受ける気になった(当時は多かったんですよ、このパターン)
4. 他に好きな人が出来た(まあ、よくある話です)
皆さんは、どういう理由だと想像しますか?