“本当に好きだったら、別れないもんね”
横浜の風景の中に隠した男の気持ち
過去にオフコースのファンクラブでアンケートをとると必ず1位になったという「秋の気配」。
しかし、作詞・作曲を手掛けた小田和正は、この結果を見るたびに「なぜこんなに冷たい男の曲が1位になるんだろう?この曲に登場する男の正体を(ファンたちは)わかっていないな」といつも思っていたんだそうです。
歌詞にある「僕があなたから離れてゆく」という部分だけを見てみます。
映画やドラマであるように優しい男が本当は彼女を愛している。だけど、やむを得ず離れていく。というような印象を受けてしまいがちですが、これに対して小田和正の意見は…。
“本当に好きだったら、別れないもんね”だそうです。
さらに、“別れるということは、他に気になる女性が出てきたりして好き度が低下したから”
“そういう男の放漫な気持ちを横浜の風景の中に隠したのが「秋の気配」だった”
とはいっても、制作段階ではいろいろな言葉を探して必死に制作して、結果的に“冷たい男の歌になってしまった”というのが事実です。
一方で、歌詞の中にある「僕のせいいっぱいのやさしさを あなたは受けとめる筈もない」という部分では、悪いのは男の方だと認めていて、この部分の思いが「秋の気配」を製作しようとするきっかけになった。とも語っています。
小田和正の甘い歌声で「秋の気配」を聴くと“優しい男”の歌だと思ってしましがちですが、「秋の気配」は冷たい男の歌である。というのが結論です。
沈黙の中にある思い出
あなたの好きな場所で…
あれがあなたの好きな場所
港が見下ろせる小高い公園
あなたの声が小さくなる
僕は黙って外を見てる
眼を閉じて 息をとめて
さかのぼる ほんのひととき
出典: 秋の気配/作詞:小田和正 作曲:小田和正
あなたが好きな場所、二人の思い出の場所である公園で別れを決意した男。
あなたが好きな場所である、“港が見下ろせる小高い公園”とは、神奈川県横浜市中区にある「港の見える丘公園」だと言われています。
あなたの声が小さくなるというのは、別れの場面になって彼女の声が頭に入らなくなっていく状況。
この時女性はどんな話をしているのでしょうか。
別れ話の最中ですから、当然楽しい話ではないと思います。
そして、二人の思い出の場所にいるわけですから、たくさんの思い出話の中でなんとか二人を繋ぎ止めることができる言葉を探しながら話をしているんではないかと思います。
そんな状況なのに彼女の声に応えることもできず、黙って外を眺めることしかできない。
女性がたくさんの言葉を投げかけている状況で沈黙することしかできないことから、この二人の恋愛に対する温度差を感じることができます。
未来に何かを期待しているのであれば“話し合う”ことができるのですが、一方に“別れ”という結論が出ている場合、歌詞で描写されているように話だけが流れていく状況が生まれます。
沈黙の中でも彼女からの話を聞きながら目を閉じてみると、たくさんの思い出をさかのぼることができます。
今はこんな別れを迎えてしまった二人だけど、楽しい思い出もたくさんあったのでしょう。
沈黙の中で目を閉じて、息を止めて、自分の世界で二人だけの思い出をたどっている場景が思い浮かびます。
あなたとの思い出を
思い出の中にあるわずかな未練
たそがれは風を止めて ちぎれた雲はまたひとつになる
あの歌だけは他の誰にも歌わないでね ただそれだけ
大いなる河のように
時は流れ 戻るすべもない
出典: 秋の気配/作詞:小田和正 作曲:小田和正
”あの歌だけは~”
という部分は“あなたと私の二人だけの思い出をこれからも大切に持っていてね”という女性からの願望のように思います。
もう一度やり直したい。とか、他には何も望まないただそれだけを願っている気持ちでしょう。
大河の流れのように時間というものは無常に流れていて、もうあの頃に戻る術もない。
この部分で、ほんのわずかですが、男性側に若干の未練を感じることができます。
優しさとは?
やはり冷たくて放漫な男の姿が…
ああ 嘘でもいいから微笑むふりをして
僕のせいいっぱいのやさしさをあなたは受け止めるはずもない
こんなことは今までなかった 僕があなたから離れてゆく
出典: 秋の気配/作詞:小田和正 作曲:小田和正
この部分は非常に自分勝手な男だと思います。
別れることを受け入れることができていない女性に嘘でも微笑むことはできないでしょう。
僕のせいいっぱいの優しさとは何を指しているのでしょうか?
これは前述した“悪いのは男の方だと認めていること”だということですが、これを優しさと捉えることはちょっと無理があるように思います。
悪いのを認めたから許される=優しさ。ということはないのではないでしょうか。
しかし、この部分があって小田和正が「秋の気配」を制作するきっかけになったということですから、そのままの意味で受け入れましょう。
こんなことは今までなかったとは、自分から女性に別れを告げたことがなかった。ということでしょう。
ここにもまた放漫な男がいますね。
“離れていく”という言い方をすると、自分の意志に反して離れていく。という印象を受けますが、実際は男が自分のために決断したことです。
小田和正が語ったように、「秋の気配」はやはり“冷たくて放漫な男の歌”だということがわかります。