飛行士の勇気ある逃走
沖縄戦での特攻隊のうち、ほぼ全部の飛行士が任務たる特攻を強いられました。
それでもごく例外的にひとり戦線離脱をして沖縄の離島に着陸して終戦まで隠れていた兵士もいたそうです。
当時の風潮を考えるととても勇気のいる行為になります。
なにせ余儀なき事態でやむを得ず特攻を断念した兵士にも上官が暴行を加えながら叱責した時代です。
「国のために生命を捧げろ」
すべての兵士の生命が羽毛よりも軽かった時代。
生きてゆくためには国を裏切らなくてはいけない。
Aメロで語られた、裏切ってしまったあいつとは大日本帝国という国体そのもののことかもしれません。
もしくは自分の生命を守るとき、時代によっては祖国を裏切ってゆかなければならない局面がある。
そのことを普遍的に描いたのかもしれません。
草野正宗による作詞は決して難解ではないのですが「ヒビスクス」に関しては中々厄介です。
重いテーマがあるからでしょう。
主人公に囁きかけたのは誰?
「恐れるな 大丈夫 もう恐れるな」
出典: ヒビスクス/作詞:草野正宗 作曲:草野正宗
主人公にこの言葉を囁いたのは誰でしょうか?
沖縄の悠久の歴史に潜む生命の根源からの声ではないでしょうか。
自然豊かな土地でこそ育まれた生命の根源からの声。
正義の定義は時代によって社会によって揺れ動くのです。
生命こそ大事だという当たり前のことが当然ではなかった不幸な時代を日本という国も経験しています。
それでも生命の根源、その根本原理は「生き残れ」と絶えず生命体に語りかけるのです。
沖縄戦の悲劇を垣間見る
女性との別れがあった
悲しみかき混ぜて それでも引きずった 忘れられない手のひら
言葉にする何度も あきらめたはずなんだ
顔上げた道の 先にも白い花が
出典: ヒビスクス/作詞:草野正宗 作曲:草野正宗
主人公は誰かと悲しいお別れをしたのかもしれません。
最後に触れた手のひらの感触が忘れがたいと歌います。
女性との別れでしょうか。
悲しみに暮れている道すがら、沖縄の島に咲く白いハイビスカスの花が芳しい。
モンスターの正体
2番目のサビです。
易しい言葉ですが解釈が難しいので注意が必要になります。
部隊には戻らない決意
咲いた揺れながら 黒蜜の味を知って
あの岬まで セミに背中を押され
戻らない 僕はもう戻らない
時巡って違うモンスターに なれるなら
出典: ヒビスクス/作詞:草野正宗 作曲:草野正宗
着陸した島で黒蜜を吸いながら滋養補給する主人公。
岬を目指して歩みを進める。
もとの部隊にはもう戻らない。
二度と特攻機に乗ることはないと意気込みます。
米軍兵士にとって特攻隊はモンスター
時巡って違うモンスターに なれるなら
出典: ヒビスクス/作詞:草野正宗 作曲:草野正宗
米軍兵士にとって生命を捨てて艦隊に特攻してくる飛行士は恐ろしいモンスターのような存在でした。
しかし主人公は敵艦隊への特攻を断念して、自身が生き延びる道を探し求めます。
当時の時代では「非国民」と罵られる立場ですが、時代が変われば英雄的な存在になれるかもしれない。
新たなるモンスターです。