ここで「あなた」という新たな人物が登場しました。
どうやら「あなた」との思い出は、楽しいことばかりではなかったようです。
もちろん楽しいこともありましたが、喜びには悲しみが影のように付きまとっていました。
普通なら悲しいことや辛いことは、早く忘れてしまったほうが幸せでしょう。
ですが、「僕」は苦しみや悲しみも自分を構成する一部だと考えています。
だからこそ、傷ついた過去もなかったことにはしたくないのです。
またその苦痛の中には、「あなた」との幸せな記憶も確かにありました。
「あなた」との幸せな思い出や辛い出来事、そういったすべての記憶で「僕」は構成されているのです。
ですがここのフレーズで、そういった自分を構成する記憶の一部が奪われてしまったことがわかります。
「僕」は「あなた」のことを忘れてしまいました。
ここで重要なのは「僕」は何が本当なのかわかっていて、何を失ったのかをきちんと自覚していることです。
このことから、先ほどの「偽憶」に溺れている人物は「僕」ではないことが確定しました。
誰にも奪うことはできないもの
誰にも渡せない 未来の海にも落ちてない
誰にも殺せない 刻まれた永遠を持っている
あの場所に
出典: 蝶の飛ぶ水槽/作詞:TK 作曲:TK
「僕」は記憶の一部を失ってしまいましたが、まだ奪われていない記憶もあります。
むしろまだ奪われていない記憶こそ、「僕」にとってもっとも大切な記憶なのです。
このフレーズが表す「場所」とはどんな意味を持っているのでしょうか。
作中では下記のような意味を持っていました。
人の記憶が詰まっている部分のこと。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/ペット_(漫画)
「僕」にとって大切な存在は、自分の特別な記憶の中にいるから決して奪えないと歌っています。
たとえ他の記憶を奪われたとしても、その存在だけは誰にも害することはできないのです。
もっとも大切な存在は「僕」の記憶の中で不滅なのでしょう。
そして歌詞カードには載っていませんが、このあと「僕」に関連する下記のフレーズが繰り返されます。
奪わないで僕のイメージを
声も身体もくれてやるから くれてやるさ
抱き締めても この記憶を顔のない誰かが奪いにくる
出典: 蝶の飛ぶ水槽/作詞:TK 作曲:TK
ですが、先ほどまでとまったく同じメロディで繰り返されるわけではありません。
より不協和音に近い、不安を掻き立てられるような旋律となっていました。
恐らくこれは、状況がより切迫してきたことを表しているのでしょう。
一部の記憶を書き換えられたことからわかるとおり、「僕」の状況はより過酷になっているようです。
能力者によって、さらなる窮地に追い込まれているのかもしれません。
「君」の存在
望みはたった1つ
そこにいた僕はきっと消えないよね?
そこにいた君はきっと消えないよね?
出典: 蝶の飛ぶ水槽/作詞:TK 作曲:TK
新たに「君」という人物が登場しました。
このフレーズの「そこ」こそが、「僕」の特別な記憶である「あの場所」となります。
つまり、「僕」にとってもっとも大切な存在が「君」なのです。
「君」に関する記憶だけは不滅だと思っていた「僕」ですが、段々と不安になってきました。
過酷な状況が自信を失わせつつあるのかもしれません。
すべて失ってしまった
景色が溢れ出して あの日の涙も溶け出した
返せ 光と影の軌跡も血だらけの傷も僕なんだ
出典: 蝶の飛ぶ水槽/作詞:TK 作曲:TK
「あなた」との記憶を失ってしまった「僕」は、さらに別の記憶も奪われてしまいました。
どんなに辛い出来事も、自分を構成する一部だから取り返したいと必死に思っています。
誰にも渡せない 宇宙の隅にも落ちてない
誰にも殺せない 隠された生命を持っている
いつか すべてを奪われた僕でも君の名前を呼べるかな
出典: 蝶の飛ぶ水槽/作詞:TK 作曲:TK
ですが、抵抗空しく「僕」は他の記憶も失ってしまいました。
恐らく「君」とのもっとも大切な記憶だけが残っている状態でしょう。
それ以外の「君」との思い出も失ってしまったので、「君」との繋がりが絶たれてしまったように感じています。
その後長めの間奏に入りますが、キリキリと引きつるような旋律が「僕」の苦しみを表していました。
すべてを失ってしまった苦痛が痛いほど伝わってくる演出となっています。