「僕ら」とはどういう存在なのか
僕らは空想の中で飼われた ただの蝶だ
僕らは水槽の中を飛んでいる ただの蝶だ
出典: 蝶の飛ぶ水槽/作詞:TK 作曲:TK
「空想」と「水槽」で韻を踏んでいます。
本来、蝶は水槽の中で飼う生き物ではありません。
蝶が水槽の中にいるということは、本来いるべきではない場所に捕らわれていることの暗示なのでしょう。
飼育されているという表現も、自分の命や行動を他者に管理されているさまを表しています。
水槽という限られた中でのみ得られる自由。
ですが、中にいるものにとっては水槽の中が世界のすべてなのです。
つまり「僕ら」にとっては、その閉じられた空間だけが世界のすべてでした。
そんな場所に捕らわれていれば、誰だってもっと自由になりたいと思うでしょう。
ですが、飼われている彼らがそこから抜け出すことは容易ではありません。
絶対に守りたいもの
「僕」の決意
もぬけの殻になった僕は誰に誰になるの?
偽憶がカラになった君を迎えに行かなくちゃ
出典: 蝶の飛ぶ水槽/作詞:TK 作曲:TK
ここで偽の記憶に溺れていたのが「君」だということが判明しました。
記憶を書き換えられ、何が本当かわからなくて戸惑っている「君」。
ですが「僕」も、自分を構成していたすべての記憶を失ってしまって自分の存在に確信が持てません。
自分が自分ではなくなってしまったような、そんな心許無い状態です。
それでも「君」を迎えにいくと決意しました。
本物の記憶どころか偽物の記憶まで失った「君」を、決して独りにはしないと心に決めたのです。
「君」との記憶
誰かが消してしまう 溶かしてしまう 心が潰れて
潰れても 潰れても 潰れても 渡せない
出典: 蝶の飛ぶ水槽/作詞:TK 作曲:TK
能力者は人を廃人にすることも可能ですが、作中ではそのような状態を潰すと表現していました。
つまりこの歌詞は、たとえ廃人になったとしても絶対に守りたいものがあることを表しています。
すべての記憶を失っても、「僕」が絶対に手放せないもの。
それこそが「君」との特別な記憶、ひいては「君」の存在そのものなのです。
すべてを奪われた僕でも君の名前を呼べるから
出典: 蝶の飛ぶ水槽/作詞:TK 作曲:TK
先ほどまではすべてを失って、「君」との繋がりさえ頼りないもののように不安がっていました。
ですが、今はそんな怯えを微塵も感じさせません。
「僕」と「君」の繋がりは誰にも引き裂くことはできないと、決意を新たにしたのでしょう。
命なんかじゃ終わらせないものがある
世界が終わり消えたら二人きりだよ 記憶で
出典: 蝶の飛ぶ水槽/作詞:TK 作曲:TK
ここでいう「命」とは、物理的な生命を意味しているわけではありません。
その人が今までの人生を歩んできた軌跡、つまり記憶をすべて失ってしまった状態を表しています。
たとえ記憶をすべて失ったとしても、自分と「君」の絆は引き裂けないと歌っているのです。
そして水槽の中にいる蝶にとって、世界とは水槽そのものでした。
水槽が壊れたらということは、心身ともに捕らわれていた状態から自由になることを意味しています。
ですが先ほども申し上げた通り、「僕ら」が自由になることは容易ではありません。
だからこそ、記憶の中での逢瀬となるのでしょう。
彼らが実際に再び出会えたのか、そのとき2人は幸せなのか、判断は聞き手に委ねられます。
最後に
「蝶の飛ぶ水槽」は楽曲としては長めの作りとなっていました。
ですがその長さを感じさせないほど、濃密で物語性の高い楽曲となっています。
美しく鋭い旋律でTVアニメ「pet」の世界観を忠実に再現するさまは圧巻です。
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