死者は語り手だったという展開

スピッツ【ありがとさん】歌詞の意味を解釈!短い日々で感じた気持ちは?悲しみに囚われない感謝の理由とはの画像

形を失ったのは語り手の方でした。

これまで死別に関して様々な説を探ってみましたが検証しなかったこと。

それは死んだのが君なのか語り手なのか、果たしてどっちなのだろうかという疑問です。

どうやら生きているのは君の方だとこのラインを読んで推察できます。

死んだのは語り手の方なのです。

草野正宗は死者からの言葉を届けようと願ったのでしょう。

「ありがとさん」はかなりアクロバティックな構成の歌でした。

イントロの引き摺るようなベースに不穏な印象を持ったはずですがあれも歌詞の世界の反映です。

この曲でスピッツはサウンドも含めてすべてコンセプトを一貫させています。

パートナーを喪った哀しみにしては涙ひと粒というのはおかしいのではという直感。

それは君の方は生きている者としていっぱい泣いたかもしれない。

しかし旅立った語り手は哀しみというものを超越した存在になってしまったからでしょう。

つまり幽霊や亡霊が棲む領域へと進んでいった語り手に哀しみという感情はありません。

あるのは生前の感謝の気持ちであって、それをどうしても伝えたいなと願っているのです。

君は喪ってしまった君のために毎朝水を捧げたり手を合わせたりするかもしれません。

死後もまた弔いの儀式の中で君のお世話になっている語り手が絞り出す言葉が「ありがとさん」です。

そもそも君が不機嫌になったのは自分を遺して旅立った語り手の勝手さに腹を立てたのかも。

形はもうないのですから語り手は君の夢の中に現れることも可能なのかもしれません。

あるいはいわゆる超常現象のような形で君への感謝を告げて加護してくれるのかも。

ただ死者にはもう生者の心は読めないという哀しさまでは乗り越えられません。

「ありがとさん」と伝えよう

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ホロリ涙には含まれていないもの
せめて声にして投げるよ ありがとさん

君と過ごした日々は やや短いかもしれないが
どんなに美しい宝より 貴いと言える

出典: ありがとさん/作詞:草野正宗 作曲:草野正宗

いよいよクライマックスです。

リフレインで構成されています。

歌詞の方は繰り返しになるのですが最後ですから改めて見ていきましょう。

生前の語り手は君に「ありがとさん」と伝えずに旅立ったのです。

考えられるのは急逝であったことでしょう。

事故死か突然死のようなもので生前の感謝をいえなかったのです。

そのために語り手は君のもとにバケてでも出ようとします。

そしてきちんと想いを伝えたいのです。

ありがとさん

君はその後、他の人に恵まれて新しい暮らしを始めているかもしれません。

そうなると相対的に語り手と暮らしている時間よりもいまのパートナーとの生活の方が長くなる。

語り手が「やや短い」と比較対象を示唆するのはそのためではないでしょうか。

あるいは自分が死者になってからの時間と比較すると「やや短い」のかもしれません。

草野正宗は周到にこの辺りのディテールにこだわっているはずです。

ならばたどってゆけばひとつの答えに導かれるのでしょうか。

草野正宗のことですからもっと仕掛けをめぐらせて二重三重の解釈を可能にするかもしれません。

大切なことはそうした裏を書いた答えよりもはっきりと歌われている言葉でしょう。

旅立つときは急すぎていえなかった言葉「ありがとさん」を伝えたい。

なぜなら君との生活は美しいものであったから。

青春期に誰かと夢を語り合った記憶はいつまでも朽ちません。

その夢を語っている自分の傍にいてくれたことで青春にも花が咲いたと確信できるのです。

すでにパートナーが遠い世界に逝ってしまった人だけに響く歌ではありません。

もっと広く青春の日々を分かち合った人への感謝を口にできなかったすべての人へ向けます。

あのとき傍にいてくれた人を思い起こして欲しい。

そして叶うならばいまからでも感謝を交歓し合おうと願う歌でしょう。

死者である語り手は現実に声を震わせることはもう叶いません。

しかし現実を生きる私たちならばお互いに声を掛け合うこともできるのです。

照れくさいでしょうからありがとうとかしこまるのではなく「ありがとさん」。

これでいいじゃないかと草野正宗はいっているように思えます。

いま青春の只中にいる人もいずれこうした思いを知ることになるでしょう。

いまのうちから「ありがとさん」と相手に伝えておくと悔いもなくなるはずです。

生命というものは突然奪われることだってあります。

死者になってからバケて出るのも中々苦労するはずです。

私たちは亡くなった人にひと目会いたいと願っても幽霊の形ですら拝めないのですから。

この曲で青春の日々の尊さを思い出したならばかつてのパートナーに声をかけてみてはいかがでしょう。

もちろん大袈裟だと相手から笑われるかもしれません。

ならば笑顔を返せばいいだけです。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

OTOKAKEとスピッツの軌跡

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中でも「ありがとさん」同様に死別したカップルを描いた楽曲をご紹介しましょう。

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複雑で難しい内容なのですが草野正宗の言葉はやさしいです。

不思議な魅力が詰まったこの曲の歌詞を徹底解説しました。

渾身の記事になっています。

ぜひご覧ください。

スピッツの初期の名曲「夏の魔物」。草野正宗の歌詞らしく解釈が難しい作品なのですが従来の解釈を顧みながら噛み砕いてみました。中々、怖ろしい内容です。「夏の魔物」の正体に迫ります。

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