羊文学が描く「世紀末のクリスマス」

「1999」は、羊文学が2018年の12月にリリースしたデジタル配信曲です。
レトロな雰囲気のメロディに塩塚モエカさんの透き通った歌声が美しい、神秘的な曲になっています。
タイトルと曲だけ聴くとあまりクリスマスという感じではないかもしれませんが、立派なクリスマスソングです。
よく聴くと、メロディは荘厳なホーリーソングを思わせます。
塩塚さんはクリスマスが大好きだそうで、その「贈り物」という意味合いでリリースしたのだとか。
確かにこの曲の印象に、「贈り物」というワードはとても合っているのではないでしょうか。
公開されているMVも、クリスマスを思わせるイルミネーションや夜景が沢山登場します。
ちなみにタイトルの「1999」とは、ずばり「1999年」のことです。
丁度20世紀が終わる頃ですね。
「ノストラダムスの大予言」で世界が終わるかも…とも囁かれていた時代でした。
当時をよく覚えている人もいれば、まだ生まれていないという人もいるかもしれませんね。
羊文学のメンバーも当時はまだ幼かったため、あまり覚えていないそうです。
この曲はそんな1999年のクリスマスを歌っています。
いってしまえば「世紀末のクリスマス」。
覚えている人は当時を思い出すのではないでしょうか。
覚えていない人や生まれていない人は、どんな時代だったのか思いを馳せるでしょう。
当時のクリスマスはどんな様子だったのでしょうか。
世紀末のクリスマス
クリスマスとなれば、もう20世紀の終わりが目前に迫ってくる頃です。
しかもノストラダムスの大予言で、世界が終わるかもしれないとされていた時でもありました。
そもそもこの予言は1999年の7月に人類が滅亡するとされていたので、本当はその予言を過ぎているのですが…。
過ぎたら過ぎたで、今度は「1999年が終わったら世界が終わるかも」という風潮になっていったのでしょう。
世界が終わるかもしれない中で過ごすクリスマスとは、どんな様子だったのでしょうか。
終わりが見えてきた20世紀
ぼくはどうしたらいい?
眠れない夜がきて
窓の外が少しオレンジに変わる
出典: 1999/作詞:塩塚モエカ 作曲:塩塚モエカ
主人公の「ぼく」は眠れない夜を過ごしていました。
ずっと眠れないあまり、いつしか夜が明けて朝日の光が空を照らしてきてしまっています。
いや、もしかしたら主人公には世界を滅亡させる大火に見えたかもしれません。
どうして彼は眠れないのでしょうか。
やはりそれは、「世界が終わるかもしれない」と考えていたからでしょう。
当然ですが夜が来ればその日は終わり、次の日になってしまいます。
つまりそれは、1999年が終わる日がまた一歩近づくことを意味するのです。
それに夜は人の心情をネガティブにしてしまうので、不安で怖くて眠れなくなってしまったと考えられます。
確かに、先のこととはいえ「近い内に世界が終わるかも」なんて思ったら眠れなくなるでしょう。
本当に世界が終わるのだとしたら、何をすれば良いのだろうか。
主人公は一晩中、ずっとそんなことを考えていたのです。
両親が子供だった時代
昨日見た映画で
過ぎていった時代は
僕のママやパパが子供の頃
出典: 1999/作詞:塩塚モエカ 作曲:塩塚モエカ
主人公は昨日、彼の両親が子供だった時代が舞台の映画を観たようです。
歌詞の世界は1999年ですから1960~70年代か、それとももう少し前でしょうか。
日本が戦後から復興しつつ、経済成長していく時代ですね。
その時代は既に過ぎてしまいました。
映画を観て「ぼく」がどんな感想を持ったのかは描かれていません。
しかし世界が終わるといわれている今(1999年)、過去の時代に対して切なく感じているように思えます。
自分もその映画の時代にいたかったのでしょうか。
その時代に生まれていたなら、世界の終焉を感じるクリスマスにならなかったかもしれません。
「知らない神様」が変える街
それは世紀末のクリスマスイブ
誰もが愛したこの街は
知らない神様が変えてしまう
っていう話
出典: 1999/作詞:塩塚モエカ 作曲:塩塚モエカ
この日は20世紀最後のクリスマスイブのようです。
子供心には楽しいイベントごとでしょう。
こうしたイベントって、街の様子が変わりますね。
しかもこの時は世紀末のクリスマスであり、まもなく世界が終わるかもしれないという時です。
今まで自分が過ごしてきた街は、これらの事情からますますざわついているのでしょう。
子供からすれば様子の変化に「自分の街が一変してしまった」と感じるのも無理はありません。
勿論、イルミネーションで見た目からでも街が変わったということも考えられます。
どちらであっても、まるで神様が一瞬で世界を変えてしまったかのように感じたのです。
いつ、誰が街を変えてしまったのか。
自分の知らない神様がやったのかと主人公は複雑な思いを抱いています。