君に胸キュン 愛してるって
簡単には言えないよ
君に胸キュン 渚を走る
雲の影に包まれて
出典: 君に、胸キュン。/作詞:松本隆 作曲:細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏
「渚」という語の「白」と「青」、「雲の影」という語の「グレー」が色彩的に対比され強いコントラストを生んでいます。
同時に、「走る」という動的なイメージと「雲の影」という静的なイメージの対比も表現されています。
結果、とても少ない語の構成から、豊かな映像イメージを生み出すことに成功しています。
行き場のない衝動のようなものに駆り立てられて海辺を走るイメージは、夏の日の恋にふさわしいエンディングです。
「胸キュン」の前は「ドキッ」
CMソングとしての「君に、胸キュン。」
「君に、胸キュン。」の作詞は、細野春臣の「はっぴいえんど」時代からの仲間、松本 隆。
「木綿のハンカチーフ」、「ルビーの指輪」、「君は天然色」、「恋するカレン」。
まだまだありますね。
「赤いスイートピー」、「スニーカーぶるーす」、「Romanticが止まらない」、「硝子の少年」…
作詞したヒット曲の多さとその多様性を、短い言葉で表現することはできません。
ジャンルを超えて幅広く多くのアーティストの楽曲の作詞を手がけたヒット・メーカーの代表格です。
作詞は細野晴臣のかつてのバンドはっぴいえんどのメンバーの松本隆が担当。CMのキャッチ・コピーである「胸キュン」というキーワードをそのまま使用した。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/君に、胸キュン。
当時のカネボウ化粧品のCM動画を見てみましょう。
お姉さんのメイクやヘアスタイルもいかにも80年代というテイストです。
「胸キュン」という言葉は、この楽曲というよりは化粧品メーカーの広告コピーとして創案されたようです。
30秒という制約の中でどうやって女性の心理に訴求するか?
おそらくサビのリフレインにするには、言葉として短かすぎて印象に残らないと判断したのではないでしょうか。
ならば冒頭に印象的なコピーを据えて、そこから展開するパターンを繰り返して…
というようなプロセスで構想されたのではないかと思います。
1982年のカネボウ化粧品CMソングは「赤道小町ドキッ」
君は赤道小町 恋はアツアツ亜熱帯
君は赤道小町 抱けば火傷をするかも
DOKI! DOKI! DOKI! DOKI!
出典: 赤道小町ドキッ/作詞:松本隆 作曲:細野晴臣
胸が「ドキッとする」とか「キュンと痛くなる」という擬態語を切り取り、コピーにする手法は共通していますね。
曲の冒頭でも「DOKI!」を連呼するわけですが、これも楽曲自体の広告性を考えた上での演出ではないかと推察します。
山下久美子の楽曲としてヒットしましたが、おそらくカネボウ化粧品の広告戦略としても上々の成果を上げたのでしょう。
この結果を踏まえて、YMOがCMソングとして成功するかどうかという企画が構想されたことと思います。
「赤道小町ドキッ!」と同じように、思考回路がショートしそうな衝動にも近いときめき感。
恋愛の主導権は女性の側にあり、魅惑され翻弄され続ける男性のせつない心情を唄うことで、女性心理に訴求。
印象的で覚えやすいフレーズを何度も繰り返す。
そのような条件を検討しながら、「間違いなくヒットする」戦略を綿密に練り上げたのが「君に、胸キュン。」です。
そういう意味では、「君に、胸キュン。」は、80年代の企業広告戦略の文脈で捉えられるべき楽曲なのかもしれません。
まとめ
YMOが「君に、胸キュン。」というテクノ歌謡に至るまでのプロセスや、企業広告を交えての解説いかがでしたでしょうか。
トリビアですが、当時のジャケットやCMのクレジットは「Y.M.O. 」。
トップのジャケット画像もそうなっています。
いつのまにかドットが抜けたわけですが、記事での表記はYMOにしました。
この「君に、胸キュン。」はシングルとして大ヒットするわけですが、彼らは商業的な成功には無関心でした。
この後、YMOは人気絶頂の最中、「散開」を宣言し個人活動の時期に入ります。
(もっともこの後、「再生」もするわけですが)
彼らの年齢も年齢ですから病気や健康の不調などを聞くことも多くなりました。
いつまでも元気で、「実験する楽しさ」を発信し続けて欲しいと願っています。
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