君の選択に制限は何もない
ここからは『UNLIMITED』の1回目のサビの検証に入りたいと思います。
『UNLIMITED』で藍井エイルが歌うサビの回数は3回です。
ネタバレになりますがサビの歌詞に使用される一人称の“僕”と“君”は毎回入れ替わります。
そこから推察できるのは『UNLIMITED』が主人公の成長を描いた物語であることです。
どのような経緯を経て主人公は殻を破ることができるのでしょう?
未来の自分が優しく語りかける
僕の全てを空に捧げたはずなのに
今更返さないで
もう枯れ果てたはずの涙が雨に溶けてく
君の全てが時に交差していくように
見えない壁越えて
もう聞こえないはずの声に耳澄ました
There is no limit to your choice
出典: UNLIMITED/作詞:篤志, minami rumi 作曲:篤志
自らの過去の記憶に蓋をすることで正気を保ってきたであろう主人公に転機が訪れます。
ふとしたことがトリガーとなり過去の記憶が鮮明に蘇ってしまったのです。
涙が溢れだし「思い出したくないのになぜ?」と嘆きます。
感情を制御できなくなってしまった主人公が呪詛を吐き出す相手は過去の自分自身に対してです。
対してその嘆きは思いがけない相手からの反応を引き出します。
その聞き覚えのある声は未来の自分のものでした。
“君の選択にはどんな制限もないんだよ”
未来の自分はこれ以上ないほど優しく語りかけます。
主人公は自身の未来に対して初めて目を向けることができたのです。
カオス理論、あるいはバタフライ・エフェクト
私たちはこの世に生を受けた瞬間から限りない選択を繰り返し成長していきます。
俗にいう「カオス理論」あるいは「バタフライ・エフェクト」という論理思考です。
蝶の羽ばたきが様々な事象に影響を与え、海を越えて地球の裏側で竜巻を起こすように...。
現在の自分の行う選択によって未来に思い描く自分の姿は無限の可能性を有するのです。
同時にそのことは過去の数々の選択の結果が現在の自分自身の姿であることを証明します。
未来に目を向けるための第一歩は現在の自分を受け入れることです。
そのためにはどれほどつらい過去であろうとなかったことにせず受け入れる必要があります。
混沌の世界に飲み込まれる
痛みを伴う通過儀礼
昇りゆく赤差しても
歪な縦が聳えて暮れる
閉じ込めた現在避けても
描き出す気も起きるはずもなく
照らし合う朝 掛け違う夜も
静寂に圧し抜かれ
還れないまま 彷徨う結末が
選択と混濁する
出典: UNLIMITED/作詞:篤志, minami rumi 作曲:篤志
人は成長の過程で必要不可欠な試練、いわゆる通過儀礼を乗り越える必要があります。
映画やドラマで主人公が海や川に飛び込むシーンを思い浮かべてみましょう。
通過儀礼とはある種の臨死体験を伴うといわれています。
『UNLIMITED』における通過儀礼とは過去の記憶と向き合うことでした。
2番のAメロからBメロにかけて主人公は混沌の境地に陥ります。
走馬灯のように脳裏をよぎるのは朝と夜、光と影といった死生観を象徴する景色です。
つらく痛みを伴う成長過程で静かな終息、つまり安らかな死を選択する誘惑にかられます。
空に捧げた君とは誰?
過去の記憶が語りかける
君の全てを空に捧げたはずなのに
今更求めないで
意味を失くしたままの記憶が今も囁く
出典: UNLIMITED/作詞:篤志, minami rumi 作曲:篤志
2回目のサビでは前述したように“僕”と“君”が入れ替わっています。
このパートで“僕”に語りかけるのは過去の自分自身の記憶です。
そのことは3行目の歌詞を解釈すれば自ずと浮かび上がってきます。
2行目までのセリフは過去の“僕”の言葉です。
過去の自身は現在の“僕”になるために様々なことを犠牲にし、傷つきながらも未来を目指しました。
そのおかげで現在の自分自身が存在することができるのです。
「だから“僕”のことをなかったことにしないで」と語りかけるのです。