最後の時が来た
わかってる いやわかってる
ここらが終わり時なんだろ
最後に教えてよ どんな命よりも
今日が選ばれた勝因は
どこにあったんだよ
出典: 20XX/作詞:東野へいと 作曲:東野へいと
「終わり」という言葉が引っかかります。
疲れ切った主人公は「テンポ」に追いつけなくなって、今が脱落する瞬間なのかもしれません。
脱落するということは主人公は敗者。
生き残った者たちが勝者となります。
そして主人公は「なぜ今、この瞬間、自分が生きているのか」を問いかけます。
誠実さを捨ててでも生きる
人でなくても生きたい
許されるのなら今は
人になりきれぬまま
満たない呼吸で
そんな体裁を忘れよう
出典: 20XX/作詞:東野へいと 作曲:東野へいと
世界で生き抜くことを「テンポ」に例えていると前述しました。
上手に「テンポ」に合わせられるということは、順応性の高さを意味します。
脱落したものは逆に適応能力が足りない…。
そんな考えから疎外感を味わっているのではないかと考えられます。
だから「自分は人ではない」と読み取れる表現をしているのです。
でも必死に今を生き抜かなくてはならない。
そこで「恥」も「体裁」も脱ぎ捨て、必死に呼吸する…つまり生きようと抗っているのではないでしょうか。
追いつけないのならいっそ
アンダンテなテンポじゃ乗り損なう
ペテン師を目指して生き急げ
澄ました歩調で得られたのが
モラルだけじゃ 餌食になる
空っぽのままでも迫る未来
飲まれてしまったらノーサイド
笑っても泣いてもこいつが最終便だろ わかんだろ
出典: 20XX/作詞:東野へいと 作曲:東野へいと
ここでまた「テンポ」を表す音楽用語がでてきました。
先ほどの「モデラート」がBPM76~96を示すのに対して、「アンダンテ」はBPM63~76。
数字が高いほど「テンポ」は速くなります。
つまり、この楽曲の主人公の「テンポ」は世界の「テンポ」より遅いのです。
このままでは周囲に追いつけずに一人取り残されてしまう…。
そんな焦りから、ズルをしてでもペースを上げようとしています。
まっとうに生きようとしても社会で取り残されて負け組になる。
だからこそ、非道徳的に生きる他ない。
そんな悲しい胸の内が吐露されているのが、このフレーズです。
生きるために必死であることが読み取れます。
もはや猶予はない
揶揄って 誹り合って 蹴り落としてでも掴み取れ
夢なんて 寝言こいて 理想追ってる時間などない
皮肉って 殴り合って 心を失くしたら奪い取れ
輪になって 笑うことさえもうないんだろう
出典: 20XX/作詞:東野へいと 作曲:東野へいと
ここでではさらに「時間に駆り立てられる」様子がうかがえます。
もたもたしている暇はない。
誠実かつ着実に生きるための猶予は残されていない。
いかに周囲を蹴落として、引きずり降ろして、先へ進むか…。
それが今の主人公にできる精一杯の生き方なのです。
孤独へ進んでいると分かっていても、それを止めることはできない。
そんな心の葛藤がヒシヒシと伝わる歌詞でした。
MVが表現していたのは
世界に取り残されていく自分
ここまで読み進めた歌詞の内容から、再度MVとの関連性をチェックしてみましょう。
度々登場した「テンポ」。
MVでは数々のタイマーが出現し、それぞれの時間を刻んでいました。
このタイマーひとつひとつが人の刻む時間を表現しているとしたら…。
多くの人がひしめき合うこの世界には、たくさんのタイマーが各々の時間を刻んでいます。
その平均値が世界の刻む「モデラート」のテンポ感なのでしょう。
主人公はそれに追いつけず必死で時を刻もうとします。
その結果、周囲の足を引っ張ることで生き抜くという方法を身に着けてしまいました。