『待ちくたびれて朝がくる』収録!
無事に花が咲いてよかったね。
どんな形で表現にたずさわる人にも日の目を見ることのない鬱々とした瞬間があります。
「あの嫌いのうた」は尾崎世界観のそんな日々の記録のひとつです。
たった4日間で録音されたインディーズ時代最後の作品「待ちくたびれて朝がくる」。
今回はその1曲目を飾る「あの嫌いのうた」の歌詞の意図を独自に解釈していきます。
「待ちくたびれて朝がくる」がバンドにとって様々な意味で重要な作品であることは周知の事実。
インディーズ最後のアルバムであると同時に尾崎世界観が孤独な日々から抜け出した瞬間の記録だからです。
「あの嫌いのうた」で繰り返されるのは「嫌い!嫌い!」という言葉。
対照的に明るいメロディーで奏でられる疾走感溢れる瑞々しいバンドサウンド。
尾崎世界観の作る歌詞は人により大きく解釈が異なります。
是非皆さまの解釈と付き合わせながらお読みください!
『あの嫌いのうた』の歌詞の意味を探る!
『君』は誰?
嫌い 嫌い 嫌い 嫌い 嫌いと突き放したって
結局またすぐにここに帰ってくるんだから
出典: あの嫌いのうた/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観
「君」はどうしてここに帰ってくるの?
何回もハッキリと「君が嫌い」と言っているのに。
当時から変わらず尾崎世界観の詩の世界はとても私的な空間に偏重しています。
結局ここに帰ってくる「君」。
「君」とは一体誰なのでしょう?
そしてどうしてまたここに帰ってくるのでしょう?
僕は君が嫌いです 本当に君が嫌いです
その喋り方もその声も
何かを伝えようとする時のその間もその仕草も
出典: あの嫌いのうた/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観
人はなんて身勝手で残酷な生き物なんでしょう。
一度嫌悪感を抱いてしまった相手の全てが見苦しく見えるのです。
必死に何かを伝えようとする姿。
楽しそうな顔もつらそうな顔も全部が嫌い!
そんなとき人は「どうして嫌いなんだろう?」などと考える余裕はありません。
『僕』は自分のことも嫌い
でも僕は僕が嫌いです 本当に僕が嫌いです
この喋り方もこの声も
何も伝えられなかった時の情けない感じも
出典: あの嫌いのうた/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観
さてここで私たち聴き手はさっそく問いを投げかけられます。
「君」のことが嫌いな僕は「僕」のことも嫌い?
このパートで歌の解釈は聴き手に委ねられました。
思い当たることはありませんか?
人間は「同族嫌悪」という感情を持っている生き物です。
嫌いと感じる対象に無意識に自分の影を見てしまう。
自分のことが嫌いな「僕」は自分に似ている「君」が嫌い。
そのことを人の持つ自然な感情と割り切れないのが尾崎世界観なのでしょう。