しんしんと降り積もる時の中
よろこびもくるしみもひとしく
二人の手のひらで溶けて行く
微笑みも贖いも
あなたの側で
出典: 春はゆく/作詞:梶浦由記 作曲:梶浦由記
1行目の歌詞は2人の時の積み重ねを感じられるものです。
また冒頭の「しんしん」という表現は、雪が積もる時に使われる表現でもあります。
2人の間には雪が降っているのかもしれません。
2行目以降の歌詞では、2人がお互いの感情を分かち合っている様子が描かれています。
特に印象的なのは、2行目の歌詞。
ここでは2人がお互いのポジティブな感情だけを共有しているわけではありません。
2人はネガティブな感情さえ共有しているのです。
このことからこの2人がただお互いを好きでいるという以上に、運命を共にするような存在であるということが分かります。
喜びは勿論、お互いの苦しみも分かち合うことでお互いを支え合っているのでしょう。
時の中で思い出となって積み重なっていくそんな日々の中感じているのは、お互いの存在の尊さ。
隣でいることによって2人の心に安心が生まれているということが分かる歌詞です。
償いと春
消え去って行くことも
ひとりではできなくて
弱虫で身勝手な、わたし
償えない影を背負って
約束の場所は
花の盛り
出典: 春はゆく/作詞:梶浦由記 作曲:梶浦由記
このパート冒頭3行では主人公の心の内が語られています。
1人でこの世界から消えていくことができないのは臆病だから。
悲しみに囚われながらも心のどこかで希望を追い求めているからこそ消えていくことができないのではないでしょうか。
4行目の「償い」という言葉は、彼女が背負っている罪の大きさを感じさせます。
この「償い」は彼女の抱えている悲しみと関係していると考えられるでしょう。
彼女の心に溢れている悲しみが捨て去れないのは、それが彼女の「償い」だからなのではないでしょうか。
そして5、6行目の歌詞からはMVにもあったような、「桜」の花が咲き誇る場所を想起させます。
何故ならこの楽曲のタイトルが「春はゆく」であるからです。
彼女にとっての季節の変化というのは、冬から春への移り変わりを指し示していたのでしょう。
春になり、桜が舞い散る中で過去の悲しみを思い出しているのだと考えられます。
儚さと優しさ
春の儚さ
罪も愛も顧みず春は逝く
輝きはただ空に眩しく
私を許さないでいてくれる
壊れたい、生まれたい
あなたの側で
出典: 春はゆく/作詞:梶浦由記 作曲:梶浦由記
ここでは春という季節があっという間に過ぎ去って行く様を表しているのでしょう。
桜があっという間に散っていくのと同じように、彼女は春という季節の儚さを心に刻んでいるようです。
2、3行目ではそんな儚さによって主人公が救われている気持ちが表されています。
彼女にとって春という季節が特別なものであるということが分かる歌詞です。
何故彼女にとって、春は特別なのでしょうか。
それは4、5行目の歌詞にあるようにそれが実りの季節でありながら、あっという間に散っていく季節であるからでしょう。
大切な人の隣で彼女が抱えている願望と、春の儚さがリンクしているように感じられる歌詞です。
破壊され生まれ変わることは、季節が巡ることとよく似ています。
彼女は人生の季節が移り変わる中でも、「あなた」の隣で時を過ごしたいと考えているのかもしれません。
優しい嘘
笑うよ
せめて側にいる大事な人たちに
いつもわたしは
幸せでいると
優しい夢を届けて
出典: 春はゆく/作詞:梶浦由記 作曲:梶浦由記
ここでは周囲の人々に対して心配をかけまいとする主人公の姿が描かれています。
1行目からは苦しくても笑顔でいようとする彼女の健気さが伝わるものです。
罪を抱えてそこから生まれた悲しみに心が満たされていようと、自分は幸せであると優しい嘘をついている。
5行目の「夢」というのは、そんな優しい嘘によって周囲から見た自分の姿が美しいものであることを願っているのでしょう。
主人公にとって周囲の人々のことがとても大切であるということが分かります。
自分よりも周囲の人々の幸せを考えているのでしょう。
「あなた」との思い出
あなたの側にいる
あなたを愛してる
あなたとここにいる
あなたの側に
その日々は
夢のように……
出典: 春はゆく/作詞:梶浦由記 作曲:梶浦由記
ここでは「あなた」、つまり主人公にとって大切なその人への愛が赤裸々に吐露されています。
楽曲最後の歌詞パートであるここでは、何度も「あなた」と共にいるということが強調されているようです。
そこから逆に感じられるのは「あなた」の不在です。
何度も大切な人と一緒にいるということを言葉にする主人公。
1〜4行目の歌詞はまるで自分自身に対して「あなた」がすぐ隣にいると言い聞かせているように感じるのです。
それを裏付けるように5、6行目の歌詞からは主人公の憂いが伝わってきます。
「夢」というものは覚めてしまえば、徐々に忘れていってしまうものです。
ここではまるで2人でいた日々が幻のようにも感じられるという主人公の心境を表していると考えられるでしょう。
今では隣にいなくなってしまった「あなた」との思い出を胸に、彼のぬくもりを思い出しています。
桜のように儚く散っていったその思い出たちは主人公にとっての愛の象徴なのでしょう。