「流星とバラード」にあふれる勢いは何か
2010年1月27日発表、東京スカパラダイスオーケストラの通算33作目のシングルをご紹介しましょう。
奥田民生をボーカルに迎えて演奏した「流星とバラード」の歌詞の意味に挑みます。
スカのビートなのにこの切なさあふれるサウンドと歌詞は何なのでしょうか。
最後まで読んでゆくとその物悲しさの意味が分かってきます。
偉大なロックスターの死のために東京スカパラダイスオーケストラと奥田民生が紡いだ歌。
それが「流星とバラード」の正体ではないでしょうか。
とはいえ、その歌詞は非常に抽象的な内容になっています。
少ない情報量の中からこの歌詞の意味を探し出しのは至難です。
それでもロックスターの死の悲しみを超えて、これからも音楽を続けてゆく決意が滲んできます。
そこで歌われるのは音楽というものがもたらしてくれる圧倒的な快感への信頼というものでしょう。
東京スカパラダイスオーケストラと奥田民生がなぜ2010年にこの歌を世に送り出したのか。
その謎の中にある音楽家としての心意気や深層心理を検証しましょう。
この国で音楽を紡ぐ人びとにとってはいつでもあの人が遺したバラードこそが最良の答えなのです。
それでは実際の歌詞をご紹介しましょう。
ここでのスピードとは
必要最小限のドラマの意味は
さっきまで 遠くに見えた
星が近づいた
消えてた思いを辿り
走りだす記憶
出典: 流星とバラード feat.奥田民生/作詞:谷中敦 作曲:川上つよし
歌い出しの歌詞になります。
登場人物は語り手と愛する君です。
語り手には僕や俺などの名称がありません。
その他の叙述も抽象的な内容に終始します。
さらにいえばあまり情報量もありません。
しかし谷中敦は必要最小限のドラマの中に大切な思いを込めました。
語り手の前に訪れるのは流星のような存在の何かです。
実際、この星空や夜空というものが歌詞解釈にとって大事なヒントになりますので覚えておきましょう。
眠っていた記憶がほとばしるような瞬間というものがあります。
語り手はどこかでカタルシスを感じているのでしょう。
今夜はいやに色んな記憶が甦るようだと思っているのです。
そして記憶の走馬灯のスピードが早いことを嬉しく思います。
もう少し先を見ていきましょう。
リミックスも愉しみましょう
まわりも見えないスピードに
優しく奏でるバラードを
出典: 流星とバラード feat.奥田民生/作詞:谷中敦 作曲:川上つよし
この曲はオリジナルバージョンも素晴らしいですが、リミックスも最高です。
Yasutaka Nakata remixはこの歌詞の真髄を捉えようとします。
それはクルマで街を走りゆく際のスピード感のようなものです。
もちろん好みはあるでしょうし、オリジナルこそ尊重しなくてはいけません。
ただ、Yasutaka Nakataはクルマのスピード感で疾走してゆく様子を見事に表現しました。
両方とも愉しんでいただけたらと思います。
特にこのラインではクルマという単語は登場しません。
それでいてこのスピードというのがクルマの話題に関するものだと教えてくれるのがリミックスの魅力です。
またここでバラードというワードを回収します。
ここでの悲しみは
なぜ雨が降らなくてはいけないのか
雨が降る街の光に
未来が霞んでる
眠れない夜の夢に
君は悲しんだ
出典: 流星とバラード feat.奥田民生/作詞:谷中敦 作曲:川上つよし
この夜は雨が降っていたといいます。
さっきまでは流星を空に見上げていましたから忙しい天候です。
しかし「流星とバラード」ではどうしても雨を降らせなくてはいけない事情がありました。
雨が降る夜にクルマというモチーフでそろそろ答えに近付けた人も多いことでしょう。
この夜にはそこはかとない悲しみのようなものが漂っています。
愛する君はどうしようもない悲しみに暮れているのです。
雨が降ってしまった夜だから君はご機嫌が悪いのでしょう。
そうなると2009年に亡くなったロックスターの名曲を思い出さずにはいられません。
何で彼だけあんなに早く逝ってしまったのでしょうか。
音楽界の後輩である東京スカパラダイスオーケストラも奥田民生もそのことが分かりません。
運命というものはときに冷たい仕打ちを私たちにしてくれます。
人の生き死にというものは特に歓びと悲しみの中で引き裂かれそうになるものです。
未来というものが霞の中にあるという当時の音楽人の言葉を谷中敦が代弁してくれました。
この「流星とバラード」にはあのロックスターにまつわる様々な符号が登場するのです。
もう悲しみには別れを告げたい
悩んだメロディー抱きしめて
モノクロの夜にさよならを
出典: 流星とバラード feat.奥田民生/作詞:谷中敦 作曲:川上つよし