「時間よ止まれ」と思う瞬間
何かヒトツだけ残せるのならそれはせめて今でありたいと
思うそばからもう忘れかけてく 寄せた波も踵を返して
出典: あおのらくがき/作詞:きみコ 作曲:きみコ
恋人と過ごす楽しい時間。
お腹を抱えて呼吸すら危うくなるぐらいに笑っていると、時間の概念なんて忘れてしまいます。
笑い声が絶えない空気の中にいて、ふと現実に引き戻された経験はありませんか?
「あー、楽しいな。笑いが止まらないし、とにかく楽しい。楽しい……」
「楽しい」という感情をはっきり自覚した瞬間、心のどこかがスッとクールダウンしてしまう現象。
ありきたりな表現を使うならば「素に戻る」と言うのでしょうか。
今が一番楽しいから、幸せだから、この感情を忘れたくない。どこかに記録して残しておきたい。
そう願ったときにはもう、楽しい「今」は時々刻々と「過去」になっています。
後から楽しかった時間を思い出してみても、幸せのゲージがMAXだった瞬間は戻りません。
砂浜に滑り込んだ波は、たった今到着したばかりなのに、すぐ沖に向かって戻っていきます。
「楽しい」と思ったときにはもう、半ば過去になっているということでしょうか。
触れた 触れた 触れた気がしたのにな
すり抜けてく魔法にかけられてしまったのかな
出典: あおのらくがき/作詞:きみコ 作曲:きみコ
「今」をこの手に残しておきたいと思い、「今」がこちらに向かってくるのを待っています。
幸せな時間が訪れ、気分は最高潮。「今」が通り過ぎる瞬間に掴み取ろうとしました。
しかし触った気がした「今」は、すでに自分の背中のずっと後ろ。
半透明の幽霊が、自分の体をすり抜けていく感覚に似ていますね。
(経験したことはありませんが!)
曖昧な水平線
出典: あおのらくがき/作詞:きみコ 作曲:きみコ
サビ直前の短いフレーズです。
海と空を隔てる水平線は、通常であればはっきりとした線として認識できます。
しかし、蜃気楼でも立っているかのように曖昧になっている水平線。
ここで歌われる「曖昧な水平線」は、「今」と「過去」を分かつラインを指していると考えられます。
明確に線引きされていれば、今が「今」であるうちに掴み取れるかもしれない。
しかしどこからが今で過去なのか分からないから、幸せな時間を残しておけないのです。
6文字の短い歌詞に、もどかしさが込められています。
続いていけばいいという願いを込めて
スケッチブック一面に描き始めたストーリー
空の青も海の青も思う色にはならないな
出典: あおのらくがき/作詞:きみコ 作曲:きみコ
手に掴み取るのが難しいなら、目に見える形で描き残しておこうと考えます。
実際にスケッチブックに描き込んだわけではなさそうです。
心の中のスケッチブックに、消えない筆記具で記録しておくことにしたのでしょう。
思い出を描き残すには小さなメモ用紙では足りません。スケッチブック「一面」を使いました。
しかし、過去は過去。過去になった瞬間から色褪せていき、あの時感じた空や海の青さを思い出せません。
青色は「きみ」との時間を表しているのではないでしょうか。
それでもそこで笑うから きみがずっと笑うから
空を越えて 海を越えて いつの日かまた続きを描こう
出典: あおのらくがき/作詞:きみコ 作曲:きみコ
色褪せていく思い出の中で、「きみ」の笑顔は空に浮かぶ太陽のような存在です。
太陽は、空だけでなく海にも映り込みます。
つまり、青に塗った思い出の中に「きみ」の笑顔が溢れているのです。
その笑顔があると、思い通りにならない色があの時の青に近づくのかもしれません。
思い描いた色に近い青の先に、次なる「新しい過去」を描き足していこうと歌っています。
特別な思い出を縁取る境界線
2番では「特別な日」の記憶について歌います。
果たして、思い出は消えてしまうものなのでしょうか。
過去の中に浮かぶ「特別な過去」に気づく
待ち合わせしては笑い合ったり 手を振りながら胸を痛めたり
特別な日々の匂いがふっと潮風に乗り辺りを包むよ
出典: あおのらくがき/作詞:きみコ 作曲:きみコ
普段はなんとなく落ち合って一緒に過ごしていた二人。
記念日にはあえて「待ち合わせ」をして、着飾って登場することもあったのでしょう。
「その格好、どうしたの?似合わない!」なんてお互いのステキな姿に照れ隠しをして笑い合うのです。
もしくはちょっとしたことで喧嘩をした日。罪悪感を抱えながら「じゃあね」とそっけなく手を振ってみたり。
二人だけが知っている「特別な日」は特別な思い出になるはずです。
しかし、いくら特別でも過去は「過去」。寄せては返す波が手招きをしているのです。
跳ねた 跳ねた 跳ねた水の飛沫が
映り込んだ世界を閉じ込めて海へ返すから
出典: あおのらくがき/作詞:きみコ 作曲:きみコ