草は枯れても いのち果てるまで
君よ夢を心に 若き旅人よ
出典: 旅人よ/作詞:岩谷時子 作曲:弾厚作
「旅人よ」をギターのアルペジオと共に美しく飾るのが、ザ・ワイルドワンズのコーラスです。
彼らはグループサウンズと呼ばれたバンドのひとつで、デビュー曲「想い出の渚」をヒットさせました。
加山雄三のボーカルを支えるコーラスには、若者を勇気づけるような優しい力があります。
美しいハーモニーが、自分は一人ではないと思わせてくれるのです。
草原の緑が茶色く変わって寂しい季節が来ても、最後まで夢を持って頑張りなさい。
生き生きとしていた季節は終わりを告げたとしても、また季節は巡って春は来る。
人生の旅を続ける若者を励ますのが、このパートの歌詞だと思います。
“旅人”に自分を重ね合わせてこの曲を聴いていた若者が、たくさんいたのではないでしょうか。
列車の窓辺に片肘ついて
旅の空を眺めて何を想う?
赤い雲ゆく 夕日の草原
たどる心やさしい 若き旅人よ
ごらんはるかな 空を鳥がゆく
遠いふるさとにきく 雲の歌に似て
出典: 旅人よ/作詞:岩谷時子 作曲:弾厚作
緑の草原に夕日が落ちて、空は茜色に染まっていきます。
若者は列車の窓からその景色を眺めていたのでしょうか。
ゆっくりと景色を楽しみながら物思いに耽るには、列車の窓辺に片肘をつくのが似合います。
できれば4人掛けの席にひとりで座って、少し寂しいけれど贅沢な時間が過ごせたらいいですね。
窓の外の景色が色々なことを考えさせてくれるのは、感受性豊かで優しい若者へのご褒美です。
自由に空を飛ぶ鳥に想いを託すのもいいでしょう。
雲が浮かぶ旅の空と故郷の空は繋がっていて、そこでは母や友人たちがいつもの日常を送っているだろう。
彼はそんなことを想像しているのかもしれません。
聴いていると、自分も列車に乗って旅に出たくなるようなパートです。
上品でお洒落な言葉のチョイス
“しじま“が星を優しく包む
やがて深いしじまが
星を飾るだろう
君のあつい思い出
胸にうるむ 夢をうずめて
出典: 旅人よ/作詞:岩谷時子 作曲:弾厚作
“しじま”という言葉のチョイスが上品でお洒落です。
静寂と同じ意味ですが、優しい響きが上手くメロディーに乗っているなと思います。
夜空を飾るのは星のはずですが、そうではありません。
夜の闇が星を目立たせるのではなくて、“しじま”が星を優しく包んでいるのです。
星の光が、より優しく美しく感じる作詞家らしい表現だなと思います。
終わった恋を忘れるために旅に出た若者は、まだ心の傷が癒えていないようです。
涙に“うるむ”のは瞳のはずですが、ここでは“夢”となっています。
恋は彼の心の中でまだ熱を持っていて、忘れたいという気持ちと交錯しているのではないでしょうか。
泣きたい気持ちを抑えて、瞳が濡れるように潤んでいるのは彼の心です。
若者の旅は続く
余韻を残すハミング
時はゆくとも いのち果てるまで
君よ夢を心に 若き旅人よ
出典: 旅人よ/作詞:岩谷時子 作曲:弾厚作
人生という旅を続ける若者を勇気づける歌詞が、最後に繰り返されます。
“時”が表すのも人生そのもので、後戻りしたり繰り返すことは出来ないのです。
岩谷時子はとても上品な人だったそうで、歌詞にもその人柄が表れているように思います。
古風な言葉遣いですが、メロディーに見事に乗った歌詞は時代を超えても色褪せることはありません。
この曲は最後に短いハミングを繰り返し、余韻を残して終わります。
美しいコーラスを聴かせてくれたザ・ワイルドワンズのリーダー、加瀬邦彦は2015年に亡くなりました。
彼の葬儀では「旅人よ」が流れ、会場に参列者の歌声が響き渡ったそうです。