青春のうた
憧れの世界
「蒼い星くず」が世に出た1960年代。日本はちょうど高度成長期にありました。
何もなかった時代から、次々と物の生まれる時代へ。
世の中が豊かになっていくのを人々が体で感じていた時代でしょう。
音楽とは、つらい時期を支えるためにも必要とされますが、そこにおしゃれな要素が加わると贅沢品に。
加山雄三の明るく伸びやかな歌声、そしてファッションやエレキギター。
それらの一つ一つが当時の若者の憧れとなっていたことが容易に想像できます。
ぎらぎらとした太陽の下、海辺なんかでギターを弾く。
もちろん歌のテーマは「恋」。
日々伸び行く日本経済を支えるためにしっかり働きながら、憧れの曲を口ずさんだのでしょう。
タイトルより
「蒼い星くず」というタイトル。
イメージを掻き立てるタイトルにはどんな意味が込められているのでしょうか。
蒼い空に見るもの
空や海。一般的には青という色で表されます。
しかし、その色は人によって違う色に見えていることもあるかもしれません。
また、その時の心の様子によっても違う色に見えたりするものです。
「青」は透き通るような晴れ渡る昼間の空や海の色。
すっきりと澄み渡る「青」を見るのは、曇りのない幸福感や、素直な想いを持っている時でしょうか。
対して「蒼」という色は、少し曇った緑がかった青色を指します。
草木の青など自然に近い色はこちらの「蒼」が相応しいよう。
スモーキーで暗さを含んだ「蒼」は、明るさだけではない深さや複雑さが感じられます。
きらきらと輝く星くずを、青ではなく蒼を表現したところ。
そこに、この歌の主人公の切なく複雑な恋心が投影されているようです。
ひとりぼっちで
たった一人の日暮れに
見上げる空の星くず
僕と君の ふたつの愛が
風にふるえて 光っているぜ
出典: 蒼い星くず/作詞:岩谷時子 作曲:弾厚作
軽快なエレキに乗せて、どんな失恋が語られるのでしょうか。
ふと見上げれば
日暮れ時というのは、ふと寂しさを感じる時間帯です。
エネルギーに満ちた朝。忙しく動き回る昼間。
それらが終わりほっと一息つくと、あたりはゆっくりと暗くなり始めています。
明るい時間であれば忘れていられたことや、どうでも良いと思えたことが急に思い出されるのもこの時間。
友人や、職場の人に囲まれていても、なんだか一人ぼっちのような気がしてきます。
暗くなり始めた空を見上げると、それはどこまでも続いていくのが感じられるでしょう。
昼間の明るい空とは違い、どこに続くのか行く末の見えないどんよりと重い夕方の空。
そんな空を見上げ、主人公は自分の孤独をより強く思うのかもしれません。
別の星
恋愛というのは、自分たちが別の個体であることを忘れてしまう錯覚をおこしてしまいがちです。
別々に生まれ、別々に生きている男女は本来、全く別の生き物。
しかし、恋愛というフィールドに一緒にはまり込むことで、まるで二人が一つであるように感じます。
そして、それがいつまでも続いていくような感覚も。
恋が終わった時、自分たちはやはり別の個体であったのだとふと思い出すでしょう。
主人公の男性は、夕方の空に微妙な距離を保って光る二つの星に、自分たちを重ねます。
それぞれが、それぞれの位置で輝きながら、吹く風にさらされ震えている様子。
そう、愛し合った二人も実はこの星たちのようなものだったんだ。
そんなことを思いながら、二人が一人であったような錯覚の時間に想いを馳せているようです。