進めスカート その両足で
悲しみの街を行け
うなれイヤーフォン 守れ彼女を
僕の声も届かないが
出典: アニー/作詞:吉田崇展 作曲:吉田崇展
「僕」にはどうやら守りたい「彼女」がいるようです。
「スカート」や「イヤーフォン」という、「彼女」が身に着けているアイテムが出てくるのが特徴的。
自分の代わりに「彼女」を守ってほしい、と思いながら「彼女」を見守っているのです。
「僕」のことを、「彼女」は認識しているわけではありません。
もしかしたら、会話もしたことがないのでしょう。
しかし一目惚れした相手や片思いした相手の幸せを願い、ただ見守り続ける「僕」。
その姿を想像すると、少し切なくもなります。
「僕」たちが住んでいるのは、「悲しみの街」。
明るいサウンドとは対照的な「悲しみ」という単語が胸に残ります。
この言葉とサウンドのミスマッチがまた魅力的。
そんなに楽しい世界ではないけど、まあ前を向いて生きていこうか。
開き直ったような明るさを感じて、清々しい気持ちになれます。
叶わない恋だけど
もういつだって君のこと
考えているけど
何回やってもこの手は
触れ合わんようだと
出典: アニー/作詞:吉田崇展 作曲:吉田崇展
「僕」は常に好きな相手のこと、つまり「君」のことを考えています。
しかし考えても考えても、「君」との距離は縮まりません。
どうやらこの恋は叶わないらしい。
それを認めたうえで、「僕」はまだ「君」のことを気にかけているのでしょう。
自分で出した結論を改めて確認しているようなフレーズです。
「鏡に映る不審者」は誰?
寝ても覚めても情けない顔
鏡に映る不審者
壁の向こうで誰かが笑う
それをじっと聞いている
出典: アニー/作詞:吉田崇展 作曲:吉田崇展
「僕」は決してヒーローでもイケメンでもありません。
どこにでもいる、ごく普通の人間です。
「鏡に映る不審者」というのが、「僕」が平凡な人間であることを象徴しています。
寝起きの自分を鏡で見て「うわ、不審者」と思ったことはきっと誰にでもあるはずです。
少なくとも私にはそんな経験があります。
鏡とか、テレビ画面やパソコンの画面に反射して映った顔を見ると「怪しいやつ」と思います。
……すみません、話がそれましたね。
それはそうと、「アニー」に出てくる「僕」に対しては、とても親近感を抱くことができるでしょう。
自分の顔を見て落胆したり、隣の部屋から聞こえてくる楽しそうな声を聴いて、1人きりの自分を実感したり。
こうした人間臭い表現が、「アニー」の歌詞の魅力でもあるのです。
何をしても変わらない世界だけど
もういつだってこの夜を
抱きしめているけど
何回やっても世界は
変わったりしなかった
涙も乾きはじめた!
出典: アニー/作詞:吉田崇展 作曲:吉田崇展
「僕」はこれまで、うじうじと悩んでいた時期もあったのでしょう。
何回も「君」に想いを伝えようとして、それができなくて1人きりの夜を何度も過ごした。
いくら自分が努力したところで、世界なんてそう簡単に変わるものじゃない。
昔流した涙が乾いてしまうくらいの長い時間を経て、「僕」は開き直ります。
「乾きはじめた!」の「!」に、もういい加減前を向こうという「僕」の気持ちが表れています。
それでも世界を歌え
ねえ 素晴らしくないけど
全然 美しくないけど
YOU AND I 泥だらけの
僕らの世界を歌え 何度も
もう 忘れてしまうほど
ずっと 鳴りやまない音
取るに足らない日々の中で
出会ったものを歌え 何度も
何度も
出典: アニー/作詞:吉田崇展 作曲:吉田崇展
サビで歌われるのは、切なくも前向きな気持ち。
世界を美しく歌い上げるような、そんな取り繕った表現は必要ありません。
「僕」にできることは、ありのままの「泥だらけの僕らの世界」を歌い上げることだけなのです。
歌は素直に言葉にできない気持ちや、やりきれない気持ちを昇華させてくれます。
「僕」は小説やマンガの主人公のように恋が実ったわけでも、何かを救ったわけでもありません。
ただの無力な、誰かの隣にいそうな人間です。
しかし「僕」は、これまでの出会いを大切にすることができる人。
叶わなかった恋も含めて歌にしてしまおう。
何度だって歌ってやろう。
切なさの中に、「僕」が精一杯前を向こうとする姿が見えてきますよね。