続いての歌詞でも気になるフレーズがあります。
「掘りまくる狭いコーナー ヤバすぎるくらいドープジャム」
ここの掘りまくるは一つ前のオタク気質なところに行き着くでしょう。
「ドープ」とは「ディープでアングラな危なさ」を指す言葉。
「ジャム」とは、即興で合わす「ジャムセッション」の略語です。
つまり「ドープジャム」とは危険なほど“ヤバイ”ジャムセッションのこと。
スチャダラパーとEGO-WRAPPIN’のこの曲のことを指しているのでしょう。
「ジャムセッション」という言葉から肩の力が抜けているようなフランク感を得ます。
大人の余裕みたいな雰囲気が感じられますね。
ソーリーハニーバニー 言い訳もたびたび
また狭い部屋にギュッとなって
女子置き去り なんとかひねり出す
いびつなファンキービーツ 宇宙から届く
儚くスウィートなメロディー
高速球 超特急
成層圏あたりを急降下
ミクロボーイ マクロガール
何億のメロディー
交信中 照準中
あなたとわたしの間のポエム
ミクロボーイ マクロガール
蒼い星のスクリーン
出典: ミクロボーイとマクロガール/作詞:M.KOSHIMA・Y.MATSUMOTO・S.MATSUMOTO・YOSHIE.NAKANO・MASAKIMORI 作曲:M.KOSHIMA・Y.MATSUMOTO・S.MATSUMOTO・YOSHIE.NAKANO・MASAKIMORI
一気にサビまで解説しちゃいましょう。
まずサビ前のフレーズですが、ここでは「女子置き去り」という言葉に注目。
これは最初の「中年男子から愛される」という内容にかかっていますね。
特にメジャーアーティストの場合、作曲する際にはターゲットを設定することがたびたびあります。
ここでは中年男子には響くが、女子には届かないようなマニアックな曲を作っていることを指しているのでしょう。
このあたりから2組の「ドープ」な感じが出ていますよね。
マニアックな音楽ファンから愛されている理由がよくわかります。
「ミクロ」と「マクロ」っていったいどういうこと?
サブカル層から愛されるメジャーアーティストとして
ここで「ターゲット」という言葉について2組の共通点について考えてみましょう。
この2組に共通していること。
それは「メジャーアーティストでありながらサブカル層からも受け入れられていること」です。
ヒップホップ界でもリップスライムやケツメイシよりはインディーズ寄り。
でもBAD HOPやPSGよりはメジャー寄り。 それがスチャダラパーですよね。
同じように、Every Little ThingやDreams Come Trueよりはインディーズ寄り。
ハンバートハンバートや0.8秒と衝撃よりはメジャー寄り。 それがEGO-WRAPPIN’です。
メジャーはいわば大衆に受けなければいけません。
いわば商業的な音楽になりますので、あくまでターゲットを広く設定して曲を書く必要があります。
インディーズも、もちろん事務所と契約している以上は、音楽をお金にする必要があります。
しかしメジャーよりはかかる金額が少ない分、ターゲットを狭めてある程度自分の好きな音楽を発表できる。
芸術的な側面を出せる部分が多くを占めるのも事実です。
スチャダラパーとEGO-WRAPPIN’はもちろん、とても高い知名度があります。
しかしメジャーに染まりきっていない。
あくまで自分たちの好きな音楽を追求しようという心構えがあるように思えるのです。
その結果、両方の層から高い評価を受けるアーティストとしてシーンでも異質な存在になっています。
「全体」と「一部」を意識した音楽
曲名にもある「ミクロ」と「マクロ」。 この歌詞から考えると、その意味は、「大衆受けか否か」に落ち着くでしょう。
マクロは全体、ミクロは一部という意味。 つまりマクロは大衆、ミクロはマニア向けということになります。
そういうメッセージに注目しながら残りの歌詞についてご紹介していきましょう。
YesYesYa’ll とか言っちゃう YO
スチャと EGO EGO とスチャ
絶賛セッション中だ
あーもう夢中さ
狙うはいつも万人受け
結局なんだかマニア向け
だいたい意味は後付け
トリコ仕掛けて明け暮れ
出典: ミクロボーイとマクロガール/作詞:M.KOSHIMA・Y.MATSUMOTO・S.MATSUMOTO・YOSHIE.NAKANO・MASAKIMORI 作曲:M.KOSHIMA・Y.MATSUMOTO・S.MATSUMOTO・YOSHIE.NAKANO・MASAKIMORI
「狙うはいつも万人向け 結局なんだかマニア向け」。
ここにこそ、この曲の言いたいことがわかりやすく詰まっています。
さきほど紹介したメジャーとインディーの話が、ここに詰まっていますね。
メジャー向けに書いても、インディー寄りの曲ができてしまうという共通点があるようです。
だからこそ、音楽的にかなり幅広い層から認められています。
そこにこそ、2組の強さがあると思うのです。
別バージョンジャケ違い
小さな遠い狭い世界
警戒!価格破壊
もっとレアなの見てみたい
あいつには勝ってる
あいつにゃ負ける
勝負じゃないのに言ってる
どうでもいいこと競ってる
同じ失敗また後悔
説明不足生む誤解
わかっちゃいるけど毎回
原因はまた同じ
出典: ミクロボーイとマクロガール/作詞:M.KOSHIMA・Y.MATSUMOTO・S.MATSUMOTO・YOSHIE.NAKANO・MASAKIMORI 作曲:M.KOSHIMA・Y.MATSUMOTO・S.MATSUMOTO・YOSHIE.NAKANO・MASAKIMORI
ここでは消費されてしまう音楽の現状を書いているのかもしれません。
ジャケットだけを変えて売り上げを伸ばすメジャーアーティストの手法に警鐘を鳴らしているのでしょう。
たしかに今は以前に比べて音楽の生産性が上がりました。
その分、価格が下がっているのも現状です。
「もっとレアなの見てみたい」という気持ちもわかります。
しかしどれを「レア」だと思うかは1人ひとり違います。
各々の「ミクロ」に届くような楽曲をもっと作っていく姿勢が表れています。
勝ち負けに関する話もそうでしょう。
ニッチな道を進んでいけば、勝負ではなくなるのです。
究極、唯一無二のスタイルを決めてしまえば、競うこともなくなります。
その分、ミクロに特化することになるでしょう。
「宇宙」をマクロだとしたら「地球」はミクロ
成層圏あたりにいるアーティストとして
応用活用してセオリー
あのスイッチ押さない程度に
ここらでもうそろそろ
どうぞイカしたメロディー
高速球 超特急
成層圏あたりを急降下
ミクロボーイ マクロガール
何億のメロディー
妄想中 目測中
流れ星に跨り急上昇
ミクロボーイ マクロガール
もう戻れない
交信中 照準中
あなたとわたしの間のポエム
ミクロボーイ マクロガール
蒼い星のスクリーン
出典: ミクロボーイとマクロガール/作詞:M.KOSHIMA・Y.MATSUMOTO・S.MATSUMOTO・YOSHIE.NAKANO・MASAKIMORI 作曲:M.KOSHIMA・Y.MATSUMOTO・S.MATSUMOTO・YOSHIE.NAKANO・MASAKIMORI
そして最後です。
「成層圏あたりを急降下」という部分に注目してみましょう。
「宇宙」がマクロだとしたら「地球」はミクロです。
成層圏はちょうどその中間地点。
そう考えると、メジャーとインディーとの違いの話に通ずるものがありますね。
「交信中」「照準中」もポイントになるフレーズです。
交信をしている相手は「消費者」でしょう。
自分たちが何を求められているのかをリサーチしながら、ニーズに照準を合わせているのです。
マクロとミクロはこの歌詞の中で「入れ子」のような役割を果たしています。