尖りつつ懸命に生きている
ガムシャラに
命を燃やし続けて
デタラメに
刃を振り回した
出典: Overflow/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
尖っていますね。
まったく丸くありません。
ひたすら懸命に生きる!
確実なものを手に入れるために、猪突猛進する姿が浮かびます。
J-POPシーンでヌーの群れのようにKing Gnuを巨大化させるため反骨精神をむき出しにして音楽を作っている。
そう解釈することもできそうです。
King Gnuのエッジの効いたサウンドを示唆している可能性も考えられます。
さて、歌詞1行目と3行目の頭1文字目が濁音になっていることに注目!
ちなみに、ファンクの帝王ジェームス・ブラウンの代名詞「ゲロッパ!」とは「Get Up!」のこと。
ガ行・ダ行・バ行の濁音、パ行の半濁音は「破裂音」で、アクセントをつけやすいわけです。
この曲の歌詞でも、続く2文字目にかけて思いっきり「跳ねるビート」になっています。
シンコペーションとは、西洋音楽において、拍節の強拍と弱拍のパターンを変えて独特の効果をもたらすことを言う。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/シンコペーション
ベースの新井和輝さんは胎教音楽がブラックミュージックでした。
ドラムの勢喜遊さんはドラマーのお父様の影響で、幼少期の遊びがドラム。
しかも真剣にプロを目指してヒップホップダンスに取り組んでいました。
まさにブラックミュージックがルーツというリズム隊の2人からすると、ボーカル井口理さんのリズムは進化中。
「Vinyl」のときは騙し騙し、変化球のリズムに取り組んでいたそうです。
ただ、この曲では歌詞3行目のようなエクスキューズ(断り)はもう必要ないのではないでしょうか。
サビの歌詞をチェック
雁字搦めの意味
オーバーフローしているんだ
日々に雁字搦めなんだ
臆病風になびいてしまう前に
愛を探しに行くんだ
君に逢いに行かなくちゃ
あと一度だけでいい
初めからやり直せるはずさ
出典: Overflow/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
ボーカルもファンクのリズム、濁音はアクセントがつけやすいという前フリをしたので、もうおわかりでしょう。
タイトルが登場するサビの歌詞1行目も、2~3行目も濁音だらけです。
「ん」が前後につく箇所もあり、フランス語のリエゾンのような鼻濁音の心地よさも感じます。
繊細な日本語では、これ見よがしに濁音が並ぶとわざとらしかったり、文章が支離滅裂になったりしがち。
ところが実にさりげない歌い方で、濁音を意識しているとは思えないほど自然な歌詞になっています。
ちなみにタイトルの意味は溢水(いっすい)、水があふれることです。
■フロウ(flow)
ラップの節回し、節の上げ下げなどのラップを使った表現の個性、オリジナリティなどを言う。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/ラップ
ただ、タイトル後半はラップ用語でもあるので「節回しが過剰」という意味にも解釈できます。
実際、濁音が多く、跳ねまくった節回しになっているところが醍醐味。
歌詞2行目の「雁字搦め」(がんじがらめ)は「身動きが取れず、逃げ場がない」様子を表しています。
雁(ガン)の群れ状態に縛られた人は動けなくなる、というのが由来です。
仕事が忙しくなりすぎて、締め切りに追われている。
音楽制作が単なる作業になってしまう前に、音楽愛を取り戻さなければ!という悲鳴にも聞こえます。
ラブソングであれば、仕事に翻弄され大切な人を失う前にきちんと会って、再び愛を育まねば!という話です。
もしくは昔からのKing Gnuのファンに見限られないように愛を込めて音楽を作り、ライブをしなければならない。
そんなストーリーも考えられます。
- Mrs. Vinci(ミセス・ヴィンチ)
- Srv.Vinci(サーバ・ヴィンチ)
- トーキョー・カオティック
King Gnuに改名する以前に、これだけのバンド名がありました。
また常田さんの別プロジェクト、ミレパことmillennium parade(ミレニアムパレード)も然り。
DTMPことDaiki Tsuneta Millennium Paradeとして活動していました。
コンセプトなどが変わるたびに心機一転して名義を変えてきたわけです。
その点を踏まえると、これが最後のチャンスと思って取り組んでいることがわかります。
誰に語りかけているの?
みっともないって呆れてくれよ
惨めだねって罵ってくれよ
見捨てずにまた遊んでくれよ
昔みたいに笑ってくれよ
出典: Overflow/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
この曲をラブソングと捉えれば、歌物語としては女性に語りかけていると解釈できます。
ただ、昔からのKing Gnuのファン、セッションシーンの音楽仲間たち、長年のクリエイティブな仲間たち。
対象はこうした方々かもしれません。
また、井口さん以外の3人は音楽的な出自がセッション界隈です。
常田さん主宰、新井さんも勢喜さんも参加するmillennium paradeはKing Gnuとかなり音楽性が異なります。
アニメ「攻殻機動隊 SAC_2045」のOP曲「Fly with me」とか(Netflix/2020年4月全世界配信)。
それ以前のDTMPとなると、なおさら尖りまくったサウンドでした。
そう考えると、「Overflow」でも随分J-POP寄りになったわけです。
恐らく、マス(大衆)を意識せず、純粋に音楽性を追求していた時代を知る方に語りかけているのでしょう。
さらに踏み込むと「音楽そのもの」というか「音楽愛の権化のような存在」に向けた魂の叫びにも聞こえます。