不思議すぎる「気になるあの娘」
掴みどころのない歌詞に驚く
2010年4月7日発表、相対性理論の通算3作目のアルバム「シンクロニシティーン」。
このアルバムに収録された「気になるあの娘」について解説いたします。
先進的でマジカルなポップサウンドが印象的な曲です。
歌詞の方は相対性理論らしい掴みどころがないけれど可愛い印象が鮮烈でしょう。
主人公が気になって仕方ない「あの娘」について色々とナンセンスな言葉を紡ぎます。
世界各国の都市を描いているのですが最終目的地が分からないスリルがあるのです。
相対性理論というユニットの不思議なイメージが歌詞の特徴にも全快で現れています。
彼らの代表曲である「気になるあの娘」を主に歌詞の面から分析しましょう。
それでは実際の歌詞を見ていきます。
「気になるあの娘」は普通の娘?
疾走感あふれるサウンドに乗って
気になるあの娘の頭の中は
ふつう ふつう わりと普通
出典: 気になるあの娘/作詞:やくしまるえつこ 永井聖一 真部脩一 西浦謙助 作曲:やくしまるえつこ 永井聖一 真部脩一 西浦謙助
疾走感あふれるサウンドが「気にあるあの娘」の特徴です。
ふわっとした不思議なポップスが多い相対性理論の楽曲の中では異色な印象もあります。
聴き続けると中毒性がありますので注意が必要です。
語り手は男子学生のよう。
彼にとって「気になるあの娘」の思考の方法はいたってノーマルだと歌われます。
しかしサウンドややくしまるえつこのボーカルが不思議系ですので額面通りには受け取れません。
エキセントリックな人があの娘はノーマルな思考だよと話しているようで価値基準からして普通ではない。
またノーマルであることがあたかも「つまらないこと」である印象も受けます。
エッジが立ったサウンドそのままにどこか棘がある歌詞なのです。
「気になるあの娘」はただ普通に暮らしているだろうお嬢さんなのかもしれません。
歌い出しから「?」が生まれます。
この不思議な曲はさらに先へゆくとマジカルな印象に拍車がかかるのです。
次のラインを見てみましょう。
青春している意地悪な娘
文化系の価値基準が垣間見られる
意地悪あの娘は県大会で準優勝
はしゃぎ疲れ眠りこんでいた
出典: 気になるあの娘/作詞:やくしまるえつこ 永井聖一 真部脩一 西浦謙助 作曲:やくしまるえつこ 永井聖一 真部脩一 西浦謙助
「気になるあの娘」に加えてもうひとり女性が現れたのでしょうか。
実はこの辺りの解釈はリスナーに委ねられます。
相対性理論としては「気になる」という音韻と「意地悪」という音韻の響き合いだけを大切にしただけです。
楽曲は疾走感がいっぱいですが、歌詞は逃げないのでゆっくり解釈してください。
「気になるあの娘」の思考はノーマルですが、意地が悪いこの娘はスポーツに打ち込んでいい成績を残す。
「気になるあの娘」が静粛なイメージであるのなら、意地が悪いこの娘はダイナミックなイメージです。
この娘は県大会で惜しくも優勝を逃しますが、ここまでの成績を残せる人は稀でしょう。
やくしまるえつこという人は謎だらけで如何なるイメージからも逃れる印象があります。
ただ、彼女とスポーツとの接点はあまり感じないものです。
彼らはどんな女性をモデルにしたのでしょうか。
学校生活の中でひときわ輝く女性に意地が悪いというレッテルを貼るひねくれ方。
文化系の学生の思考方法がちらりと顔をのぞかせています。
思考がノーマルな女性よりも意地が悪い娘の方が一般的な感覚では魅力的です。
しかし相対性理論の各メンバーに一般的な感覚を求めるのは無理があるでしょう。
特別な感性がなければ彼らはここまで活躍できません。
若いのに老いたくない少女
音韻にこだわり抜いた歌詞
気になるあの娘の生きがい 願い
不老 不老 不老不死
意地悪あの娘はインターハイで熱中症
なびく髪に日射しがキラキラ
出典: 気になるあの娘/作詞:やくしまるえつこ 永井聖一 真部脩一 西浦謙助 作曲:やくしまるえつこ 永井聖一 真部脩一 西浦謙助
相対性理論は本当にどこまでも音韻にこだわるようです。
音韻が第一ですから内容がナンセンスになってしまってもまったく問題ないという姿勢がうかがえます。
「生きがい」「願い」という音韻の重ね方などが見事です。
また「不老」という言葉は歌いだしのラインの「普通」と音韻が響き合います。
一般的な女子高生で思考もノーマルな「気になるあの娘」は若くして老いもせず死にもしないことに夢中。
論理ばかりにこだわると矛盾がいっぱいある歌詞ですが不思議な世界観をそのままに楽しみたいです。
老いもせず死にもしないことは古代から人類が追い求めてきた普遍的なテーマ。
しかし若さにあふれる女子高生が老いないことに興味があるというのは無理があります。
とはいえやくしまるえつこならば若い内に随分悩んだかもしれないと思わせるところが彼女の深さです。