世界から注目されているシンガーソングライター・美波
2017年にファーストアルバムをリリース。
2019年にテレビアニメ『ドメスティックな彼女』のオープニングでメジャーデビューという美波。
リリースしている曲は少ないのに、知る人ぞ知るシンガーソングライターなのです。
2021年7月に公開されたYouTubeでの『DROP』再生回数はわずか1か月で175万5千回、8.6万いいねと爆速。
しかもコメント欄には、日本語だけでなく外国語の書き込みも多く、全世界から注目のアーティストです。
1997年生まれの若い彼女ですが、『DROP』の歌詞がとても深くて心に刺さります。
日本語がわからない人でも思わず引き付けられてしまう、彼女の歌の魅力に迫りました。
ソウルフルな歌声と息づかいが心を打つ
埼玉出身の美波は、中学生のころに見た尾崎豊のライブ映像に影響されて、作詞を始めました。
本格的な音楽活動は高校進学後のことです。
『DROP』を聞いて感じるのは、息づかいの生々しさとソウルフルな歌声です。
前奏が始まってまもなく、ため息でもない深いブレスが入ります。
透き通る声というよりは、どちらかというと粗削りで魂から絞り出すような感じもあります。
『DROP』では、夢をもって東京に上京するも、苦しい日々から抜け出せない若者を描いています。
都会に飲み込まれながら、必死に息をしようとしている様子を声や息づかいで表現しているのかもしれません。
夢を抱いて都会に出てきた若者の歌

この『DROP』は、夢をかなえようと都会に出てきた若者の生きざまを描いています。
果たして夢はかなったのか、かなわないのか、見ていきたいと思います。
日没の東京のアニメーションが幻想的なMV
だって 喉が渇いたから
と潮水呑み込んで
都会しょっぱくて
ドロップ甘ったるくて
少し舐め過ぎていた
出典: DROP/作詞:美波 作曲:美波
MVの舞台は日没の東京です。
雨がしとしと降っている中、都会のシンボルである東京タワーの明かりが灯っています。
全体的に暗い情景。
寂しげな都会の雨空が映し出されますが、実は主人公の心の中にも雨が降っています。
都会の水にしょっぱさを感じるのはなぜ
主人公の若者は、地方から上京してきたのです。
甘いドロップというのは、地元にいたときに思い描いていたキラキラした希望です。
東京に行けば、きっと成功できる。夢がかなう。
そう思って上京したのに、夢をかなえるということはそんなに甘いものではなかったのです。
甘い夢、つまり甘いドロップばかりなめていたからのどが渇いた主人公。
でも水だと思って飲んだものは、しょっぱい潮水だったといいます。
ドロップの甘さをいやしてくれるわけでもなく、むしろしょっぱいのは東京のせちがらさでしょう。
水を飲むことすらできない。そんな絶望にも似た気持ちが感じられます。
東京のスピード感をガードレールの内と外で表現
急ぎすぎていたから
見過ごしたものばっかりだ
ガードレールの内側じゃ
真剣だった単純リリックもう届かなくなった。
出典: DROP/作詞:美波 作曲:美波
成功することに必死だった。
急ぎすぎていたから、積み重ねることを忘れていたのかもしれない。
主人公がそれまで走っていたのは車道のような早い流れだったのでしょう。
リリックというのは主人公が伝えたかった自作の歌詞のことです。
もしかしてミュージシャン志望だったのかもしれません。
車道にいると周りの車の流れが速くてついていけなくなったから、ガードレールを超えて歩道に入った。
すると今度は、求められている都会のスピード感から脱落してしまった気持ちになっています。
車道は都会の移り変わりの速さ、スピード感の比喩でしょう。
歩道からじゃ、自分が必死に歌っても車のような都会の速さには声が届かない。詞が届かない。
この歌詞からは、都会で成功しようともがいた苦しさが感じられます。