「愛す」といえなかった季節
2019年1月22日発表、クリープハイプの通算12作目のシングル「愛す」。
学生時代の通学バスでの最後のお別れシーンが歌われています。
主人公は尾崎世界観自身ではないかと思わせるようなねじくれっぷりで切なくなる曲です。
好きな人への愛情をストレートに伝えられなくて悩んでいた青春時代が甦る歌でしょう。
あの頃、なぜ内気な青少年は女性に対して素直でなかったのでしょうか。
大人になったいま振り返ると自分の不器用さに気付いて布団を頭から被りたくなります。
恥ずかしさというものの中に自分の心を隠していて、思ってもないことをいってしまったり。
あれからどうやって大人になったのか。
いや、本当に大人な男になれただろうかなど様々な想いが去来する歌になっています。
衝撃的、もしくは印象的な言葉が多いので気付きづらいですが卒業ソングになっているのです。
クリープハイプ、もしくは尾崎世界観の素顔がのぞけるような気がしてきます。
どこまでもフィクションかもしれませんが真実味というものが圧倒的な歌詞なのです。
いま好きな人に素直に思いを打ち明けられない人は後悔しないために聴いてください。
歳を重ねたリスナーは往時の自分の姿を思い出して無事に大人になれたことを祝福しましょう。
様々な聴き方ができるイマジネーションをくすぐる名曲です。
この曲「愛す」の歌詞を紐解いて青春というものの悲哀を噛み締めましょう。
それでは実際の歌詞をご覧ください。
刺激的な言葉たち

逆にもうブスとしか言えないくらい愛しい
それも言えなかった
急ぎなほら遅れるよ やがてドアが閉まるバス
出典: 愛す/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観
歌い出しの歌詞になります。
登場人物は語り手の主人公と愛する君です。
尾崎世界観の声は男性にしては甘い可愛い印象があるはず。
そんな彼がいきなり「ブス」という侮蔑的な表現をするのでびっくりするでしょう。
この言葉は最初こそ聴いていてそんなこといって大丈夫なのかと心配になります。
しかし相手への愛というものが裏付けになっていることが分かってくるので安心しましょう。
好きな女子に対してつい侮蔑的な言葉を投げつける主人公の稚さがのぞけます。
ちなみにこの主人公の一人称は明示されません。
この記事では便宜上、僕という表現を用います。
通学バスが来る情景が歌われるのでおそらく高校生なのだと想像できるでしょう。
いまの高校生といえば恋愛に対して臆することはありません。
周囲の目を気にして変に恥ずかしがる傾向もないでしょう。
しかし尾崎世界観の高校時代はこうだったのではないかと真実味を持って訴えます。
「小学生じゃないんだから」と思っても仕方がありません。
稚すぎるメンタリティを抱えたまま思春期を過ごす僕の姿。
こうした主人公をまるごと理解できる人は少ないはずです。
しかし誇張された表現だと受け止めると、「ああ、自分にもこんな時代があった」と思えます。
思春期の男子というものはまだ心の中にガキを飼っている存在なのです。
そんな僕も君に侮蔑的な言葉を投げかけながらもバスに遅れないように気遣います。
大人になる途上の思春期の僕、その心の中にある矛盾というものを丁寧に描くのです。
「愛す」には傑作と話題のMVがあります。
このページからリンクを貼りました。
ぜひご覧ください。
思春期あるある
駄洒落の中に隠した想いは
君がいいな そばがいいな
やっぱりそばには 君じゃなくちゃダメだな
違うよ 黄身って 誤魔化して
蕎麦の中の月見てる
出典: 愛す/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観
素直な心を駄洒落や言葉遊びの中に隠してしまう僕がいます。
笑えることが至上の価値を持っているのが青春期というものの特質です。
僕には君と近づきたい思いが誰よりもいっぱいあります。
しかしそれをいざ言葉にすると笑えない現実が訪れそうで怖くて仕方がないのでしょう。
ここまでナイーブな青少年は珍しいと思ってしまう人もいるはずです。
そんな人は自分がいかに幸せだったのかその事実を大事に生きてください。
ねじれてしまった心を抱えてこじらせてしまう人というのはいっぱいいるのです。
ここまでデフォルメされると誰もがそのおかしさに気付くでしょう。
しかし青少年の大多数が心の中に尾崎世界観みたいな自分を抱えて生きています。
このせいで彼らは愛について他の立派な同年代男子よりも遅れをとってしまうのです。
何で素直に好きといえないのでしょうか。
フラレたらかっこ悪いし怖いからという酷く子どもじみた理由が正体です。
迂闊に愛を失って傷付くのが怖いという恋愛素人であります。
月見蕎麦はひとりで食べるだけで果たして美味しいものでしょうか。
蕎麦には罪はありません。
しかし君とふたりでニコニコしながら食べられたら蕎麦ももっと美味しいことを僕は知らないのです。
電話もできなかった僕は
ベイビー ダーリン 会いたい
メイビー ダーリン 曖昧
ベイビー ダーリン 会いたい
ような気がしないでもない
出典: 愛す/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観
思春期の恋愛にある曖昧さまでも歌われます。
恋愛したことが初めてであるならば、君への想いが本当に恋なのか確信が持てません。
いまどき洋楽でもない限りbabyという言葉は聴けないでしょう。
他にも言葉遊びが非常に楽しいです。
このbabyには可愛い娘という意味合いもあります。
「ブス」なんて侮蔑的な言葉を投げかけておきながら本心では愛おしくてたまらないのです。
実際には高校生時代最後のバス通学であっさりとお別れしました。
用事を作って会うことだって可能なのですが誘い出すこともできない僕がいます。
電話する、もしくはメールすることにも躊躇してしまうのです。
なぜ君に惹かれるのかその理由が判然としないからかもしれません。
恋愛においては理由のないものが正解なのに整合性を求めてしまって完結できないのです。
もやもやした思いだけが募ってゆきます。
青春は満喫した
どうして正直になれなかったのか
いつもほらブスとか言って素直になれなくて ちゃんと言えなかった
ごめんね 好きだよ さよなら 時間通りに来るバス
出典: 愛す/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観