King Gnu『CEREMONY』
異質な楽曲
King Gnuが2020年1月に発売したアルバム『CEREMONY』。
今回は、大きな話題を呼んだこのアルバムの11曲目に収録されている『壇上』を紹介します。
「当初アルバムに入れる予定はなかった」というこのナンバー。
アルバム全体を通して聴いてみても、異質な雰囲気を放っています。
King Gnu解散!?
この楽曲では、ギター担当でもある常田大希さんがメインボーカルをとっています。
彼がこの楽曲に込めたもの。
それは「いまのKing Gnuを終わりにする」という強い想いでした。
人気絶頂の時期に発表された楽曲だからこそ、解散を示唆するような歌詞には多くのリスナーが驚いたことでしょう。
では早速、『壇上』で描かれた世界を読み解いていきます。
変わってしまったもの
大人になんてなりたくなかった
叶いやしない
願いばかりが積もっていく
大人になったんだな
ピアノの音でさえ胸に染みるぜ
出典: 壇上/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
ここでは自分自身の成長を、非常にネガティブな目線で捉えているようです。
大人になることは時に、「できることが増える」ことを意味します。
しかし他方で、この歌詞が示すとおり子どものような自由さを失っていることも事実。
さらに大人になることで、子どもなら気にしない「社会のしがらみ」「大人の事情」を意識し始めます。
それもまた、1-2行目にあるように「実現できないこと」が増え続ける要因なのでしょう。
そして4行目。感傷的な気分の常田さんは、聴きなれたピアノの音に涙腺を刺激されているようです。
出会った「君」の正体
君はすっかり
変わってしまったけど
俺はまだここにずっといるんだ
汚れた部屋だけを残して
出典: 壇上/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
ここで新たに登場してきた「君」。いったい誰なのでしょうか。
これは続く歌詞から想像すると、「常田大希さん自身」だと考えられます。
「君」とは、音楽を始めたばかりの常田さん自身のこと。
自分がやりたい音楽を、自分がやりたいように奏でていた頃の自分自身です。
その頃のことを思い出しながら、いまの自分と見比べているのでしょう。
知名度があがってくると、世間から求められる音楽と自身がやりたい音楽の間にはギャップが生まれます。
きっと常田さん含めKing Gnu全員が、このギャップに悩まされていたのでしょう。
想像を絶する忙しない日々の中で、世間の求める音楽に徐々に流されていった彼ら。
常田さんはそんな自分たちを振り返り、歌詞に綴りました。
本当にやりたい音楽が変わったわけではありません。
それはいまもまだ、彼らの胸の中で熱く燃えているのです。
本当の夢って?
ちっぽけな夢に囚われたままで
売り払う魂も残っちゃいないけど
君のすべては俺のすべてさ
なんて言葉は過去のもの
今ならこの身さえ差し出すよ
出典: 壇上/作詞:Daiki Tsuneta 作曲:Daiki Tsuneta
ここで語られている夢とは、常田さんたちがやりたい音楽をやること、ではありません。
ではここで表現されている夢とは何か?
これはきっと、自分たちの音楽をたくさんの人に聴かせたい、つまりは売れたいという欲望でしょう。
もちろん常田さんは、この夢を否定しているわけではありません。
その夢だけが独り歩きしている状態を否定しているのです。
そこに続く2行目、「魂を売り払う」とは、手に入れたいものの為に悪事を働くことを指す慣用句。
つまり、売れるための音楽をやる気力はもうないということでしょう。
アルバム発売前の2019年、King Gnuの音楽は聴かない日がないほどでしたね。
人々に知れ渡れば知れ渡るほど…。CMやドラマのタイアップが決まれば決まるほど…。
世間の人たちが聴きやすい、キャッチーな楽曲を求められていくのは至極当然のことでしょう。
しかしふと立ち止まって考えてみたとき、常田さんはそんな現実に大きな疑問を抱きました。
これが本当にやりたいことだったのか?ただ世間に求められる音楽を量産しているだけではないか?
そんな疑問に支配された、苦しい胸の内がそのまま伝わってくるようなフレーズです。