松本清張作「黒革の手帳」の主題歌
ピカレスク小説に合わせた挑戦的な歌
今回福山雅治が主題歌を手掛けたドラマ「黒革の手帳」は、これまで何度もテレビドラマ化されている松本清張のピカレスク小説代表作です。
幅広い創作活動を見せた作家松本清張ですが、社会派推理小説の創始者として、今もその作品は愛されています。
映像化された作品も多く、「鬼畜」「天城越え」「砂の器」など有名作品も多数あります。聞き覚えのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
福山雅治の「聖域」を主題歌としたのは、2017年テレビ朝日系木曜ドラマ。7月から9月まで放映された主演武井咲によるものです。
これまで山本陽子、大谷直子、浅野ゆう子、米倉涼子の主演でドラマ化されてきたのですが、悪女が主人公といういわゆるピカレスクドラマの典型ですね。
今回は小説とは少し設定が変わっていますが、昼は銀行員で夜はクラブで働くという主人公が、銀行の金を横領し、その金で成り上がっていくというドラマ。
福山雅治はこういう複雑なシチュエーションでの心情を上手く描いています。
悪女の中の矛盾
赤裸々な表現で
福山雅治は女性目線で語る歌詞も多く作っていますが、今回の「聖域」はこれまでとはちょっと違って、悪女が主人公。
タフでありながらデリケート、頑なでありながら目的達成には手段を選ばない柔軟さ、悪女の内部にある矛盾を見事に福山雅治が歌い上げています。
使われている言葉はやはり福山節と言えるもの。
決して難しい単語は使わず、心情を述べることに焦点を当てています。
そのドラマを意識したセリフ調の歌詞は、赤裸々に悪女の心の中を映していて、ドキッとさせられますね。
お高いもの お安いもの
上品なもの 下品なもの
色々売ってます
でも買えるものと
決して買えないものあります
出典: https://www.uta-net.com/song/235952/
這い上がっていく女性の凄み
女であるがゆえに強烈
ドラマ「黒革の手帳」の主人公、原口元子は、死んだ母の借金を背負い、派遣社員として昼は銀行で働き、夜はスナックでバイトをするという生活を続けています。
借金返済の為に生活は困窮し、疲れ切った暮らしをしているわけです。
そんな時、働いている銀行で税金逃れの架空口座があることを知った元子は、自らの私腹を肥やす汚い人間たちに怒りを感じ、ある計画を思いつきます。
黒革の手帳にその不正にかかわった人物、口座をメモ、そしてその口座の金を横領、そしてその手帳と引き換えにその金を誰にも邪魔されることなく手に入れるわけです。
手に入れたお金でクラブを経営、栄光を手に入れたかに見えましたが...しかしその後は裏切りにあったり、逆に罠にはめられたりと波乱の生活が続く、というストーリー。
福山雅治はそんな主人公の気持ちを代弁するかのように語り掛けます。
正直だねって言われるんです
よく綺麗って言われるんです
自分じゃ全然思ってませんが
あらイヤだ これ嫌味ですか
若さっていつまで売れるの?
綺麗っていくらで買ってくれるの?
出典: https://www.uta-net.com/song/235952/
いかにもこの「黒革の手帳」の主人公が言いそうなセリフですね。
若さ、綺麗さ、それをお金に換えて生きていく。水商売の女性が言いそうな本音をストレートに語っています。
そして、その裏にはのし上がっていこうとする女性の情念が渦巻いています。
それを次で鋭く、福山雅治が語ります。
自分を支配するのは自分だけ
孤独な主人公の心
黒革の手帳を使って、のし上がった元子でしたが、逆に恨みも買っていました。結局、裏切られ、罠にもハマられてしまうことになるのですが、その心は、孤独そのものでした。
孤独であるからこそ、頑なになり、そして金を欲を追い求める。悪女ではありますが、人間誰もがもつ影の部分をこのドラマで私たちは見せられることになります。
それをこんな風に福山雅治は歌います。
だけどね あなたね 勘違いしないで
わたしを支配するのはわたしです
本当のわたしの価値には誰にも
値段はつけられない
出典: https://www.uta-net.com/song/235952/