なぜ片方の眼を隠す?
より強調される美しさ
証明写真機が登場する前に正面を向いた彼女が片手で顔を覆い、目を閉じるシーンがあります。
片方の眼を隠し、こちらを見据えるもう片方の眼が耐えられないとでも言いたげに閉じられていくのです。
そこには自分自身が何なのかを見たい気持ちと、現実を見たくない気持ちが表れているような気がします。
明日なんか いつも信じてない
朝が降りる その瞬間まで
出典: Prime Numbers/作詞:松尾潔 作曲:家入レオ・久保田真吾(Jazzin'park)
出だしに続く歌詞にもどこか諦めたような辛い心が描かれています。
静かで切ないオープニングのメロディーと共に彼女の胸の内を吐き出すような内容です。
また片方が隠れたことで彼女のキリッとした眼がより強調されて、美しさも増しているような気がします。
それは華やかな美しさというよりは孤独で切ない美しさです。
「Prime Numbers」を収録したアルバム『DUO』のジャケットにも片方の眼を隠した写真が使われています。
ドラマティックなサビのメロディー
孤独で孤立した素数たち
ドラマティックに盛り上がるサビの部分で白く光るものが明らかになります。
闇夜に冷たい光を放つネオンはローマ数字で2、3、5、7、11、13という6つの素数なのです。
素数を自分以外の数字で割ることはできません。
他の数字が入る余地のない、孤独で孤立した数字なのです。
だから松任谷由実は素数を“どこにいても馴染めない”と表現し、家入レオにもその影を見たのでしょう。
孤独で孤立した素数たちは無数に存在します。
同じように世の中や他の人たちに馴染めず孤立した、自分と同じように孤独な人たちがたくさんいる。
6つの素数をバックに歌う家入レオもまた孤独を漂わせています。
しかも彼女は自分自身にも割り切れない思いを抱えているのです。
「苦しい」なんて 素直に言えたとしたら 涙をこぼせたなら
Ah 割り切れない自分だって ありのまま愛することができるのに
出典: Prime Numbers/作詞:松尾潔 作曲:家入レオ・久保田真吾(Jazzin'park)
自分の思いを素直に表に出すことができない。
他の人に分かってもらうこともできず自分自身を愛することもできない、と歌っているのです。
歌詞の一番最初に出てきた“つくり笑い”はもちろん楽しくて笑っているわけではありません。
自分をごまかして形だけでも周囲に溶け込む、自分を守るための悲しい手段です。
そんな彼女は恋愛をしても素直になれずに苦しい思いをするのでしょう。
凛とした雰囲気の中には…
証明写真機の中で
証明写真機のカーテンを開けて中に入り、椅子に腰掛けてカメラに向き合っている家入レオ。
歩く姿もそうでしたが、凛とした雰囲気をカーテン越しの姿勢の良さからも感じることができます。
しかしその雰囲気とは裏腹に彼女が悩みを抱えているのがスローモーションの映像から伝わってくるのです。
証明写真機の中の家入レオはカメラを見ることができずに俯いてしまいます。
自分の内面が写されてしまうようで怖いのかもしれません。
それでも意を決したように唇を噛みしめるのですが、また片方の眼を覆ったりと気持ちは揺れ動いています。
周囲に馴染めず自分自身を割り切ることもできない辛さが狭い空間の中で表現されているのでしょう。
その間も切ないサビのメロディーが流れてMVから目が離せなくなるドラマのようなシーンです。
写真を撮り終えた彼女は外に出て腰をかがめ出来上がった写真に手を伸ばします。
そこに写っているのはいったいどんな姿なのでしょうか。
写っていたのは?
出逢ってしまった素数と素数
最後に彼女が手にした写真には、男性に肩を寄せて笑顔を浮かべた姿が写っています。
恋をした彼女が一番幸せだったときの写真で、たった今撮ったはずの写真ではありません。