「失敗がいっぱい」の力とは
2019年11月12日発表、小沢健二の通算6作目のオリジナル・アルバム「So kakkoii 宇宙」。
小沢健二にとっては何と17年ぶりとなるボーカルが含まれたアルバムになります。
日本中の小沢健二のファンが待ち望んでいたアルバムから「失敗がいっぱい」をご紹介しましょう。
何ともヘンテコな雰囲気のボサノバでどこかポンコツな味わいもあるサウンドに仕上がっています。
しかしサビの歌詞などで多くの人が感動をともにしたことでしょう。
小沢健二らしいユーモアがたくさんつまった歌詞なのですが真っ当な感動をもたらせてくれます。
子どもを育ててゆく中で感じた風景や情緒を反映させたのかもしれません。
もしくは失政続きの日本政府を揶揄したのかとも思わせます。
百色に变化するようなこの曲の歌詞を紐解くことは並大抵のことではありません。
それでも「失敗がいっぱい」の歌詞から毎日の生活で大切なことの核心を浮き彫りにしましょう。
本人も疲弊して擦り切れたほどの作品リリースの時代とは確実に変わりました。
それでも自分と子どもの成長に合わせて作品を届けてくれるようになった小沢健二。
彼が私たちに届けてくれた想いを大切にしたいです。
それでは実際の歌詞をご覧ください。
悲劇は要らない
政治への不信がのぞける?
秘密はあるもの 隠すもの
追求されたら否定するもの
みんながないフリをしてるけどね
出典: 失敗がいっぱい/作詞:小沢健二 作曲:小沢健二
歌い出しの歌詞です。
ボサノバ調のサウンドと不安定なメロディ・ラインで早くも謎な雰囲気を醸し出します。
まずお断りしないといけないのはこの曲に限らずアルバム「So kakkoii 宇宙」の曲は情報量がいっぱいです。
歌詞の分量がちょっと尋常ではなく意味よりも言葉を追いかけるだけでもいっぱいいっぱいになります。
配信サイトでも聴くことはできますが小沢健二のこだわりの歌詞カードが付属したCDがお薦めです。
この歌い出しは近年の疑惑で揺れる為政者の姿を思い出させます。
為政者だけではなくその周辺に群がって利益を獲ている怖ろしい面々。
国会の質疑で野党から追求されても「そのご指摘には当たらない」で逃げおおせている人たち。
秘密を隠し通すための嘘にすがることで疑惑がインフレーションするような状況が横行しています。
政治や社会のモラルハザードが極限まで進んでしまいました。
国会があんな調子では世相も荒涼とするのは当然かもしれません。
小沢健二はアルバム「So kakkoii 宇宙」のリード曲「彗星」でも現在の政治への不信を表明しています。
とはいえ「失敗がいっぱい」も「彗星」もこうした状況へのアンチを表明するだけの歌ではないです。
芯の部分は「僕らはどうまともに生活を送ろうか」というテーマにこそあります。
分かり合えない私たちは
誤解はするもの されるもの
どんどんと溝は深まるもの
あるとき悲劇の幕が開くまで
出典: 失敗がいっぱい/作詞:小沢健二 作曲:小沢健二
人々の相互理解というものが日本社会から消えてゆきました。
日本社会だけでなく排外主義や移民排斥のような風潮が世界で吹き荒れます。
他者との付き合い方というものをどうしてゆくのかは私たちの緊急の課題でしょう。
相手の素性について詳しく知ろうともしないのに私たちは評価や断定をすぐに下します。
人類にとって悲劇的なのは相手の方も私たちに対して予断で評価をしてしまうことでしょう。
そのために偏見が生まれて国境を隔てた理解ができません。
さらに同じ国の中でもお互いに会話ができなくなるほどの分断が進行しています。
対話というものの中で偏見を解消しなくてはいけないのですがその機運はうかがえません。
小沢健二は破滅的な悲劇を未来に設定しています。
しかし彼自身もよく知っている通りに局地的な破綻は現在進行形で世界のあちらこちらで起きるのです。
国と国、民族と民族、意見の左右、そして上級と下層。
世界はこうした溝にあふれています。
この傾向は家族やパートナーの中でも起こることだってあるのです。
「失敗がいっぱい」はまさに私たちのこうした失敗の実例をいっぱい挙げてゆく歌詞になっています。
ただし小沢健二はその上で大切な処方箋をくれますので失望もしますが希望こそが本質の歌です。
もう少し見ていきましょう。
悲観主義には負けない
反省が魂を救済するから
涙に滅ぼされちゃいけない
毎日には なおす力がある
失敗のはじまりを反省する時も
その力はくる 魂を救う
出典: 失敗がいっぱい/作詞:小沢健二 作曲:小沢健二
感動的な言葉があふれてきます。
歌詞では涙に負けてはいけないよと歌われますが、このラインに感動して落涙しそうです。
日々の中で意識を高めてゆけば溝は埋まるから悲観主義に流されてはいけないと歌います。
相互理解のために私たちは歩み寄る必要があるのでしょう。
ただし相手がふんぞり返った為政者ではそうした行動にも限度があるかもしれません。
でも時間はかかるだろうけれど真実はいつか勝利するという意識が小沢健二の中で明確にあります。
毎日がやり直すチャンスなのだから希望を忘れないと歌うのです。
悲観主義や何もしない冷笑主義ではなく積極的な反省をすることが大事だとも歌います。
人類の歴史は失敗の連続でしょう。
たとえば2回に渡る世界大戦の記憶を若い人たちは共有していません。
しかしその大失敗の歴史のそもそもの原因に立ち返って反省することは私たち日本人の責務です。
この反省から獲た力によってある程度の平和を取り戻した経験が私たちにはあります。
青春が徴兵によってモノクロームの記憶しかない人たちだっていました。
しかし根本的な反省によって私たちは青春の記憶が概ねカラーで再生される時代を生きています。
これこそ魂と呼ばれるものが救済された証でしょう。
せめて日々の中で失敗を見つめて反省をしよう、これこそ小沢健二が世界に提出する処方箋なのです。
笑えないを失くしたいから
涙に滅ぼされちゃいけない
毎日には
笑えないを笑えるにする力があるから
出典: 失敗がいっぱい/作詞:小沢健二 作曲:小沢健二