ああ 砕け散る 宿命の星たちよ
せめて密やかに この身を照らせよ
出典: 昴 -すばる-/作詞:谷村新司 作曲:谷村新司
ここからが谷村新司らしい、メロディーも歌詞も本領を発揮するパートです。
優れた歌唱力を生かして低い音から高い音へと一気に伸び上がり、バラードらしく盛り上げていきます。
永遠に輝くように思える夜空の星も、いずれは消えてしまう。
そんな覚めた視線の先には自らの運命が見えているのでしょうか。
“宿命”は「さだめ」と読ませて重く荘厳な雰囲気を出し、“密やか”という表現は繊細さを感じさせます。
荒野へと歩き出した主人公の覚悟を表しているのが2行目の歌詞です。
そこには孤独な自分を励ましてほしいという願いも込められているように思います。
少しだけでも、という切ない願いが“密やか”という表現になったのでしょう。
夜空に輝く道標
地上に届いた冷たい光
我は行く 蒼白き頬のままで
我は行く さらば昴よ
出典: 昴 -すばる-/作詞:谷村新司 作曲:谷村新司
盛り上がったところから更に聴く人を虜にするパートがここです。
“私”ではなく“我”という表現には、荒野を一人行く主人公のプライドが表れています。
彼の顔を静かに照らす“昴”の光は、夜空に輝く道標です。
しかし地上に届いたその光は冷たく、孤独を拭い去るほどではありません。
暗闇に浮かぶ頬の色が表すのは、孤独を抱えながらも迷いを捨てて進むことを選んだ心の色なのでしょう。
自分を励ましてほしいと願っていた星たちに、彼は別れを告げるのです。
歩みを促すようなスネアの音に続いて入るストリングスには、冷たい光を溶かすような暖かさがあります。
「昴」のイメージを決定づけたのは、このパートのメロディーと歌詞だと思います。
“凩(こがらし)”にも負けない決意
文学的な表現が表すものは?
呼吸をすれば胸の中 凩は吠き続ける
されど我が胸は熱く 夢を追い続けるなり
出典: 昴 -すばる-/作詞:谷村新司 作曲:谷村新司
“昴”に別れを告げた主人公に希望の光が見えています。
冷たい夜の荒野を行く彼の胸には、熱くたぎるものが生まれたのです。
孤独な心の中に吹き込む“凩”も、荒野へと歩き始めた彼の決意を揺るがすことはできません。
一番の同じパートではアコースティックギターだけでしたが、ここではベースが加わっています。
ベースのシンプルで力強い音は彼の力強い歩みを表しているようです。
話し言葉ではない文学的な表現の中に、決然としたものが感じられます。
“昴”は宿命の星?
無名の星たちに託した想い
ああ さんざめく 名もなき星たちよ
せめて鮮やかに その身を終われよ
出典: 昴 -すばる-/作詞:谷村新司 作曲:谷村新司
“さんざめく”とは大ぜいでにぎやかに騒ぐ、という意味だそうです。
冷たくも美しい輝きを放つ“昴”と共に夜空を埋め尽くす無名の星々。
それらが一斉に瞬く様子を描いた歌詞ですが、星を見上げる主人公は何を想うのでしょう。
“昴”とはこれまでの人生を象徴するもので、それが宿命のように彼を縛っていたのかもしれません。
荒野へと歩き始めた彼の心に寄り添うのは、その他大勢の無名の星たちなのではないでしょうか。
永遠に輝くかのように思える星々にも寿命があり、いつかは終わりが訪れます。
その最後の一瞬にひときわ明るい光を放つように、自分も堂々と生きて最後の時を迎えたい。
そんな想いが2行目の歌詞に表れているように思います。
悲壮でロマンチックな想いを静かに盛り上げるストリングスの音色が印象的なパートです。