そんなぼくらの交響楽的社会
形而上学的道徳感
お金じゃないとか言うな、
お金って愛の数値化だ
C28のM73 Y18でKが14!
やっぱ子供とか作んなきゃだし
それとコンビニでケーキも買おうよ
出典: ゴッホ/作詞:志磨遼平 作曲:ドレスコーズ
冒頭では六畳一間で一人孤独に考えていた交響楽的社会と形而上学的道徳観。
それがここでは「ぼくらの」になっています。
つまりここでは語りかけるパートナーがいるということです。
やはり交響楽的社会というのは、それぞれが役割を持ってみんなで作る社会のようですね。
そして次にはお金の話に言及します。
「愛があればお金なんて」は嘘です。
お金は愛の指標として必要なのです。
それは決して愛がお金で買えるという意味ではありません。
愛する人のためならお金を一生懸命稼がないといけないということでしょう。
次の記号に関しては美術やプログラミングを勉強している人ならピンと来たはずです。
カラーパーセントですね。
実際この色を作ってみましたが、紫に白を混ぜたような色になりました。
ゴッホといえば黄色や青色が有名ですが、全く関係のない色です。
強いて言えばゴッホが治療用に飲んでいたとされる「ジギタリス」という花の色ですが……。
実はこの数値には全く意味がないようで、語呂の良い言葉を入れただけのようです。
そして話は子どもを作るという至極現実的な話になります。
最終的にはコンビニでケーキを買うという、非常にささやかな幸せを求めるのです。
ついに老後の話までし始める
くだんない会話で笑おう
ちゃんと 死ぬときの話もしよう
もうやることなすこと写真撮って
老後にふたりでながめよう
死ぬために生きてるんだとか
必ず終わりがくるだとか
なにがなんだってなんなのだ
ぜんぶ手に入れるだけだ!
出典: ゴッホ/作詞:志磨遼平 作曲:ドレスコーズ
ついに二人の老後にまで話が及びます。
しかも死ぬことを意識して生きていくとまで言っています。
結局ささやかな暮らしを選ぶことにした主人公……。
と思った矢先に「全部手に入れる!」と宣言します。
ここでリスナーは「あれ?」と思うわけですね。
じゃあ今までのは何だったのと疑問を抱くようなパートになっています。
この曲は何のためにあるのか?
朝 目が覚めてここがたとえ火の海でも
気付かないくらい 幸せな夢を見るわ
ぼくらがなにかを変えるため生まれたなら
こんな音楽も本当はいらないだろう
出典: ゴッホ/作詞:志磨遼平 作曲:ドレスコーズ
ここの歌詞は難解です。
逆に言えば、何かを変えるために生まれたのではない人にはこの音楽が必要だということでしょう。
もし世の中の何かを変えるという使命を持って生まれたのなら、音楽に絆されなくても使命を果たします。
しかし、そうでは無いからこの歌が必要なのです。
つまりこの歌は、何かを変えろというメッセージを含んでいるのだということになります。
ささやかで平凡な人生を歩むかに見えた主人公ですが、どうも違うようなのです。
そしてストーリーは最初に戻っていく
ああ 男の子 ちゃんと傷つけ 今は
偉大なあやまちの真っ最中
ああ 女の子 ぼくらホントにばかだけど
なんでもするよ 泣かないで
ああ 時計はまわってごまかすんだよ
ねえ 死ぬとか今は信じられないけど
出典: ゴッホ/作詞:志磨遼平 作曲:ドレスコーズ
子作りやコンビニのケーキを歌っていたところから、対象年齢が一気に子どもに下がります。
男の子に対してはたくさん失敗をするように言い、女の子にはそのことを謝ります。
「なんでもするから泣かないで」と、弁明もちょっと子ども向けになっていますね。
つまりこれは選択肢を狭めて一つの道に進んだ大人から、子どもへのメッセージでしょう。
どうせ大人になれば何か一つに絞って専念しなければなりません。
だから子どものうちに色んなことに挑戦し、いろんなことで失敗すべきだと言っているのです。
そして一番のサビと同じフレーズが出てきます。
さっきまで死にも目を向けて生きていくと言っていたのに、ここでまた死から目を背けています。
おそらく主人公は、子どもたちならそれでいいと思っているのでしょう。
そして話は振り出しへ
ぼくがいなくて困る人なんか
いない、とも毎朝思う
ぼくは ゴッホじゃやなんだ
やっぱりゴッホじゃやなんだ
出典: ゴッホ/作詞:志磨遼平 作曲:ドレスコーズ
そして最後に話は振り出しに戻ります。
恐らく主人公は、最初の六畳間から出ていないのではないでしょうか。
いろいろと空想にふけるうちに脳内でささやかだけど幸せな一生を体験した主人公。
しかし、主人公は結局「何もかも手に入れたい!」という気持ちを捨てきれませんでした。
ゴッホのように何もかもを犠牲にして芸術という果てないものに人生を捧げること。
大切な人とささやかな幸せを手に入れること。
そのどちらかを選ぶことを最終的に拒絶し、全てを望む主人公は、これからどうなるのでしょうか。
これは、「音楽の全てを味わいつくしたい」という志磨自身の心の叫びでもあるのでしょう。