永遠のファイティングマン!エレカシがこめた祈り
大人気ロックバンドとして、今も最前線で活躍し続けているエレファントカシマシ。
彼らの音楽は、なぜ多くの人の心を掴んで離さないのでしょうか?
その鍵を握るのが、作詞作曲のほとんどを担うボーカル・宮本浩次さんの存在です。
コトバへのこだわり
美しいイントロが耳元に寄り添うように始まるこの曲は、すっと胸に染みこむような優しさをまとっています。
ここで一つ知っておいてほしいのは、この曲のタイトル表記についてです。
「絆」という日本語の正しい仮名表記は「きずな」ですが、あえて「きづな」と表現されています。
絆という言葉は、人と人との繋がりを示す素敵な意味として使われています。
しかし、もう一つ別の意味があるのです。
それは、「犬や馬や動物などを繋ぎとめておく綱」という意味です。
絆の語源である「騎綱」には、何かを縛りつけて自由を制限する、しがらみのような意味があります。
文学愛好家の宮本さんが、いかに思いを巡らせてつけたタイトルだったか考えさせられます。
このタイトルの意味を踏まえつつ、それぞれの歌詞をみていきましょう。
背負っているもの、続く道の先
目的地がはっきりと見えない
どこまでゆけば俺は辿りつけるのだろう
出典: 絆/作詞:宮本浩次 作曲:宮本浩次
冒頭のこの歌詞から、目的地に向かって長い一本道を歩く人の姿がイメージできます。
向かう方向はわかっているのに、あとどのくらいでゴールするのかはわからない。そんな不確かな状況です。
今いる場所をゴールとしてしまえばもう歩かなくてすみそうですが、どうやらそれもできないようです。
絆の公式ミュージックビデオでは、その世界観が見事に表現されています。
孤独ではないから悩む
揺れる心のままで何を言えると言うの?
出典: 絆/作詞:宮本浩次 作曲:宮本浩次
ゴールを目指して歩くなか、不安に襲われます。
「この道を歩いて正解だったのか?」「ゴールするまで体力はもつだろうか?」
そんな自信のないことを思っても、主人公は弱音を吐くことができません。
弱音を言ってしまいそうな誰かが周りにいるからこそ、思い悩んでいるのです。
この部分から、主人公が孤独ではないということが読み取れます。
それが愛する家族なのか、恋人なのか、それとも仲間なのかは、この段階ではまだわかりません。
頼りない自分を他者に見せることに、躊躇いを感じているのかもしれません。
ファンと自分へ向けた想い
未来と過去の狭間で
向き合えば切なく 振り返れば眩しく
出典: 絆/作詞:宮本浩次 作曲:宮本浩次
このフレーズには、隠されている意味があるように思います。
「人生のゴールを考えると終わりが寂しく感じられ、思い出に浸って生きることも虚しい」
この表現から、曲の主人公として、二つの具体的なイメージが湧いてきます。
一つは、この曲を作った宮本さん自身です。
「絆」がリリースされた2009年は、エレカシのデビューから21年が経った年で、宮本さんは当時43歳でした。
この3年後に急性感音難聴を患い、ライブ活動を一時中止しています。
当時の宮本さんは、デビュー当時のような音楽を作り続けることに難しさを感じていたのではないでしょうか。
過去の栄光を振り返る自分を叱りながら、これまで築いてきた歴史に負けないように戦っていたのです。
もう一つの主人公は、この曲を聴いているエレカシのファンです。
死というゴールに向かって生きるなかで、老いていく自分を受け入れられないまま、思い出に浸ってしまう。
デビュー当時からのファンは、ちょうどそんな年代に差しかかっていた頃です。
「あの頃はよかったな…」思わずそう言ってしまう年代の人が聴けば、感情移入せずにはいられません。
どちらにせよ、未来への希望を捨てられず、思い出にすがってしまう人の弱さが表現されています。