あんなに君が好きだったはずのチャーリー・パーカーのアルバムがぼくの部屋に残されています。

君が好きだったはずのものを置き去りにしているように、ぼくのことなどすっかり忘れてしまったのでしょうか?

一緒に何度も聴き、君がチャーリー・パーカーの素晴らしさを熱く語り、そんな君を愛おしく思っていた素敵な時間。

そういうささやかだけれども幸せだった日々はもう戻りません

ぼくはだめになった…

偶然、再会したぼくたちは…

森田童子【ぼくたちの失敗】歌詞の意味を独自解説!失敗って何のこと?「高校教師」を盛り上げた歌詞に迫るの画像

だめになったぼくを見て
君もびっくりしただろう
あの子はまだ元気かい
昔の話だネ

出典: ぼくたちの失敗/作詞:森田童子 作曲:森田童子

偶然の再会でした。

ばったり街中で出会った君は、もうすっかりぼくの知っている君ではありません。

同じようにぼくも、昔のぼくではありません。

ぼくたちから去って行った友人と同じようなファッションに身を包み、中身もすっかり変わってしまいました。

こんなぼくを君に見られたくはありませんでした。

共通の友人であり、今は君の恋人になっている「あの子」のことを思わず尋ねてしまいました。

そんな事を君に聞いてどうしようというのでしょう、すべては終わったこと、過去の話なのに

1993年に「ぼくたちの失敗」がヒットした理由

日本中が熱に浮かされたバブルが崩壊

森田童子【ぼくたちの失敗】歌詞の意味を独自解説!失敗って何のこと?「高校教師」を盛り上げた歌詞に迫るの画像

内閣府景気基準日付でのバブル崩壊期間(平成不況(第1次平成不況)や複合不況とも呼ばれる)は、1991年(平成3年)3月から1993年(平成5年)10月までの景気後退期を指す。バブル崩壊により1973年(昭和48年)12月から続いた安定成長期は終わり、失われた20年と呼ばれる低成長期に突入した。

出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/バブル崩壊

バブル期には「土地価格は下がらない」という神話がありました。

土地価格は高騰し、主婦や学生までもが「財テク」という言葉に踊らされた狂乱の時代です。

日経平均株価も上昇し続け、企業は際限なく成長するかのような幻想を抱いた時期でもあります。

しかしあっけないくらい簡単にバブルは弾けます。

日経平均株価については、1989年の大納会(12月29日)に終値の最高値38,915円87銭を付けたのをピークに暴落に転じ、湾岸危機と原油高や公定歩合の急激な引き上げが起こった後の1990年10月1日には一時20,000円割れと、わずか9か月あまりの間に半値近い水準にまで暴落した。

出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/バブル崩壊

どれほどの経済収縮であったか数字を見て驚いた人も多いかと思います。

ピーク時には4万円を超えると思われていた日経平均株価がわずか9ヶ月間で半値近くに下がったのですから。

喪失感の中、放映された「高校教師」のヒット

バブル崩壊後、放映された「高校教師」は、成就されない恋愛の「哀れさ」、結末の「儚さ」が共感を呼びました。

そしてそこに流れた森田童子の「ぼくたちの失敗」は、バブル狂乱後の喪失感に共鳴しました。

夢を実現しようとした学生運動の後の惨めな心情と、永遠の成長を夢見たバブル崩壊後の心理は奇妙にシンクロしたのです。

ぼくたちの「失敗」とは?

失敗とは学生運動のこと?

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ぼくたちの「失敗」イコール学生運動という図式は教科書的には正解です。

しかし、その一語で片付けてしまうと何となく「身もふたもない」ようにも思います。

未来や世の中の不条理や理不尽について真剣に考え、行動したことすべてが間違っていたかというとそうではありません。

真摯でひたむきだったからこそ、この曲を聴いて喪失感と同じくらいの悲しい心情が沸きおこるのです。

何が間違っていたのかもわからないまま「ぼくたちの失敗」と言ってしまう「ぼくたちの愚かさと優しさ」が痛く悲しいのです。

これからの「ぼくたちの失敗」