失恋というものは誰にでも抑うつ症状をもたらします。

うつ病などの感情障害ではありませんが、心が疲れたと泣き始める症状です。

この抑うつ症状は誰にとっても痛い経験になります。

仕方なく涙を流してしまうような精神状態が訪れるのです。

私も君との別れを経験して心というものが傷んで壊れました。

私たち人間は壊れものですのでこういうときこそ細心のケアが必要になります。

ひとときの考え方であっても私は君との奇跡の出会いそのものを否定したくなるのです。

もともと出会うことがなければいまこれほどに胸が痛むことはなかったと想像します。

もちろん君と出会った事実と楽しかった記憶は改ざんできません

もし私と君が出会わなかったならば、この歌そのものの生まれはしないでしょう。

とりたてて消したい記憶のようなものになってしまった訳でもありません。

いまこの瞬間の胸の痛みをどう和らげようかと考えた末に君の存在を少しの間だけ否定します。

失恋からどう立ち直るのかはその人自身の力によるものです。

抑うつ症状から抜け出すための努力を否定することはできません。

奇跡だと思った出会いそのものをひととき忘れることだって必要なときがあります。

幸いなことに私のこうした思いは涙がこぼれた一瞬に到来したものに過ぎません。

記憶を消去しても

君の声が眠らせてくれない

足立佳奈【面影】歌詞の意味を徹底解説!君が主人公の人生に残したものとは?切ない想いを紐解く...の画像

遠く向こうから
聞こえた 君の声
気のせいってわかっているけど
振り返ってしまうんだ

出典: 面影/作詞:足立佳奈 作曲: Carlos K.

私には君の声がまだ耳もとで甦ることがあります。

平たく表現すると幻聴なのですが、詩的に昇華した表現ですので心配はいりません。

私にとって君の存在は関係が破綻してからもまだまだ生々しいのです。

かつてのパートナーの声というものは鮮明な記憶になってしまいがちでしょう。

好きになった人というのは大抵、自分にとって魅力的なトーンで話してくれるものです。

私が君を77億の人の中から探し当てたその理由には声が魅力的だというものもあったのでしょう。

この場所で君と会うことはもうないだろう。

そんなことは私だって分かっています。

しかし頭の中で鳴り響く声が止みません。

実際に君がここにいるのかと一瞬だけ驚きます。

私と君の出会いそのものがどのようなシチュエーションで起きたものかも明示されていません。

そのため私と君の別れの後にそれぞれの生活圏が重ならない理由も分からないです。

とにかく私のいまの生活圏に君の存在はありません。

同じ学園や職場での出会いですと、別れた後も毎日顔を合わせる気まずさを感じるものです。

私と君はそのように生活圏をともにしていた仲ではなかったと気付かされます。

そのことが私と君にとって幸いなのか不幸なのか。

私の心の中には別れた君へ残してしまった思いというものが募っているのです。

トラウマを生き直す私

足立佳奈【面影】歌詞の意味を徹底解説!君が主人公の人生に残したものとは?切ない想いを紐解く...の画像

君と出会わない人生なら
こんなにも悲しく感じないのに
君だけを忘れてしまいたい
止まらないこの涙

出典: 面影/作詞:足立佳奈 作曲: Carlos K.

またサビの歌詞になります。

先ほど見たラインと似ていますが、細部が違うのでご注意ください。

私はこれまで生きてきた中で得た様々な記憶の中から君だけを消去したいと願います。

しかし人間の記憶のメカニズムはこのように単純に手を付けられるものではありません。

失恋というものも一種のトラウマになることがあります。

トラウマ経験の本質はふとしたときに記憶が甦るフラッシュバックにあるのです。

理性で忘れようとしても夢の中で、あるいは本当に不意打ちに君の記憶が甦ります。

かつて熱情を持って愛した人の記憶なのですから当たり前です。

逃れようもない君の記憶との対峙の仕方を私は考え直す必要があります。

しかし私のいまの頭の中にあることはこの目から涙を止めることだけです。

いまは君のことをなるべく考えないように努めるでしょう。

しかし君の記憶のフラッシュバックはときを選ばずに私を襲います。

その度に私は失恋というトラウマをもう一度生き直してしまうのです。

足立佳奈の声にも熱がこもっているのが感じられるでしょう。

私の悲しみというものが絶頂にあるのを表現しています。

「面影」は私と君以外の人を77億人の顔のない人の中に埋没させているのです。

悲しみに暮れる私の肩にそっと手を置く友人も描かれません。

私はあくまでも自分の中だけでこの悲しみを超克しなくてはいけないのです。

触感と甦る熱

足立佳奈【面影】歌詞の意味を徹底解説!君が主人公の人生に残したものとは?切ない想いを紐解く...の画像

また同じ
真っ白な
季節が巡り
今もまだ手に残る君のぬくもり

出典: 面影/作詞:足立佳奈 作曲: Carlos K.

「面影」はウィンター・ソングです。

真っ白な情景にこだわり続けます。

私はめぐりくる季節を今年はひとりで過ごすことになるのです。

寒い季節をひとりで乗り越えることは誰にとっても憂うつなものでしょう。

私の心は沈みがちになったかもしれません。

しかしこの瞬間に甦るものがありました。

それが君の手が放っていた熱でありぬくもりです。

単なる記憶ではなく感触・触覚で得たものが実際に熱を帯びて甦りました

この甦る温かい感触が私の凍えた心を溶かしてくれます。

この体験を経て君の記憶は私にとってもう怖いものではなくなるのです。

実際に君がいて手を温めあった記憶の中に甦るものは懐かしい愛でしょう。

かつて夢中になって胸を焦がした思いがフィードバックしてきます。

実感で意識できるものと再び出会えると私の思いは変わってゆくのです。

いよいよクライマックスの歌詞になります。

私の君への思いが幸福という出発点に戻るのです。

歌詞を見てみましょう。

最後に 「面影」との会話を

恋愛を再評価できるようになる

足立佳奈【面影】歌詞の意味を徹底解説!君が主人公の人生に残したものとは?切ない想いを紐解く...の画像

君と出会えない人生なら
恋もしてなかったな

出典: 面影/作詞:足立佳奈 作曲: Carlos K.

君の手のひらの温もりとともに思い出したものは恋愛という私たちにとって至高の価値を持つ経験です。

恋に敗れて恋愛そのものを否定してしまう人もいるでしょう。

かつての私もそうだったといえます。

失恋がショックであったあまりに君との出会い自体を記憶から消そうとしました

しかし君の「面影」は粘り強く私に問いかけ続けたのかもしれません。

恋を忘れてしまっていいのかと君の「面影」が私に問うていたのです。

君との出会いをきっかけに恋をできて幸せをシェアした経験はかけがえのないものであります。

私は君との出会い自体をもう一度歓迎できるようになると恋への向き合い方も変わるのです。

恋というものの至高の価値を人生の中で再発見できた瞬間が描かれています。

私は君との復縁は望めませんが、新しい恋愛には臨めるようになるでしょう。

君がくれた大切なものを再発見