誰かの胸を借りて泣くことは、相手を信頼していないとできることではありません。
涙も強烈な感情表現の1つだからです。
「君」がぼくの胸を借りて泣いたとしたら、ぼくを信頼していることの証になりえます。
その時にぼくはようやく、「君」の信頼を得ていると信じられるのかもしれません。
相手から信頼され、愛されていることが分かれば、疑いや不安はなくなります。
薄暗い感情で曇ったぼくの心が、安心で澄んでいくのかもしれません。
現時点では、これはすべてぼくの想像です。
ぼくは自分の不安の消し方を模索している最中だと思われます。
いっそのこと「君」を
禁断の果実齧る残骸(シャクシャクシャクシャク)
後悔などない むしろ とめどない!
アダムとイブはじめ 人間なりの解
伴い ぼくは君の首を絞めたい。
出典: 独白園/作詞:GESSHI類 作曲:水谷和樹
再び、歌詞の中に神話的なモチーフが登場しました。
ここに現れる果実は、ヘビがイヴに与えたといわれる「知恵の木の実」でしょう。
禁忌を犯した2人は、神によって楽園を追われることとなりました。
起こってしまったことを後悔しても、やり直すことはできません。
それが人間の「原罪」だといわれています。
罪を背負った人間は、しょせん神と同じ答えを出すことはできないのでしょうか。
ぼくが想像の中で展開した答えは、「君」を手にかけることでした。
恋心が一周した結果だといいかえることも可能かもしれません。
始まりは、ぼくが「君」を好きになったこと。
その恋心のせいで、幸せの他に不安、恐怖、重圧などの感情も生まれました。
暗い感情と向き合ううちに、ぼくはそこから逃れたくなったのでしょう。
ですが、「君」を嫌いになることはできません。
どうするか。
そもそも多様な感情を抱くことになった原因は、「君」への恋心です。
それならば、「君」の方がいなくなればいい。
極端な選択肢ではありますが、解決策としての一案ではあります。
嫌いになりきれない
ねぇ?引くでしょ?重い?理解。
ねぇ?これこそ本性だから
ねぇ?いつまでそこにいるの?
ねぇ?キスして。
出典: 独白園/作詞:GESSHI類 作曲:水谷和樹
ここで、多少の客観視が入ってきます。
ぼくは自分の想像に溺れるだけではありません。
もしもこれを「君」に伝えたら、どんな反応が返ってくるだろうか。
それもしっかりと予想できています。
自分の恋心が重いことも、おそらく引かれてしまうことも、分かっているのです。
もしかすると、「君」に嫌われたら楽だと考えているのでしょうか。
しかし、このフレーズの最後には口づけを要求しています。
「君」に嫌われたいという願いは、手っ取り早く不安から逃れる気休めでしかありません。
本当は、ぼくの方が「君」を嫌えないのです。
葛藤の末に
明かされる本音
だって怖いんだもん…
いつか君が居なくなってしまうかもしれないって考えたら
この苦しさを何処に向けたらいいのかわからないよ…
出典: 独白園/作詞:GESSHI類 作曲:水谷和樹
ここで、唐突に素直な思いが現れました。
様々な感情の流れを通りすぎた先で、ようやくぼくの本心に辿りついたのです。
ぼくの危惧は恐れでした。
「君」に好かれることの重圧も、「君」を殺したい衝動も、恐れに根差していました。
大切な人が目の前からいなくなることほど、悲しく怖いことはありません。
ぼくはそれを本質的に理解していたのでしょう。
恐れに目を向ければ、怖いことは次々に浮かびます。
一度その考えにとらわれたぼくは、どうやってこの恐れを消化すれば良いか分かりません。
ぼくは荒々しい狂人ではなく、怯える人間に過ぎなかったのです。
心の支え
君がいつか くれた言葉 胸の奥の 深い所に
隠してるよ 忘れたかな? ぼくはずっとね、忘れないよ。
生きるため
出典: 独白園/作詞:GESSHI類 作曲:水谷和樹
ぼくには、「君」との大切な思い出があるようです。
大切な言葉をかけてもらったのでしょう。
ぼくにとってそれが心の支えになっています。
もしかするとその言葉をくれた相手は、何を言ったか忘れているかもしれません。
しかし何気ない言葉が、誰かの人生を救うこともあります。
ぼくもまた、「君」の何気ない言葉に救われたのです。