散りばめられたキーワード
新世界交響楽団とは?
イヤホン耳にあてて
天の川の声が聴こえて
銀色砂漠に響く 新世界交響楽団
出典: 夜王子と月の姫/作詞:ミネタカズノブ 作曲:ミネタカズノブ
ヘッドホンで何かを聴いている登場人物。
主人公はあなたであり私であり「銀河鉄道の夜」の主人公ジョバンニでもあるのでしょう。
峯田さんにとって楽曲は個人の想いが強く反映されたもの。
そこに紡がれる物語は「夜王子と月の姫」を聴くすべての人を主人公にする普遍的なものです。
私たちは「夜王子と月の姫」を聴くことで「銀河鉄道」に乗車する疑似体験をしています。
キラキラと輝く砂漠は月の光に照らされた水面です。
おそらく童謡の「月の沙漠」からの引用なのでしょう。
旅の途中私たちはある音楽が響いているのに気付きます。
クラシックの名曲ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」の第2楽章です。
子どもの頃、この音楽が流れるのは夕刻、つまり家路につく時刻。
「銀河鉄道の夜」でも一面金色に輝くとうもろこし畑の場面でこの曲が流れていました。
宮沢賢治が郷愁を込めて日本語詞を付けたことでも有名です。
「もう帰らなくちゃ」
翼の溶けた夜王子
名前はカムパネルラ 翼溶けた夜王子
夜更かし子供は見た
クロオルして空を飛ぶ夢
出典: 夜王子と月の姫/作詞:ミネタカズノブ 作曲:ミネタカズノブ
ここである人物が登場します。
夜王子でもあり私たちのヒーローでもあるカムパネルラです。
カムパネルラは「銀河鉄道の夜」の主人公がもっとも大切にする友人、そして英雄の象徴でもあります。
彼の翼はどうして溶けてしまったのかは小説のネタバレになるので言及いたしません。
カムパネルラは自己犠牲と喪失の象徴でもあります。
そして宮沢賢治が「雨ニモマケズ」で憧れた人物ともいわれています。
私たちはカムパネルラに、そして夜王子になることができるのか?
それこそ「夜王子と月の姫」の主題だと推察しています。
雨ニモマケズ
風ニモマケズ
東ニ病気ノコドモアレバ
行ッテ看病シテヤリ
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ
出典: 雨ニモマケズ/宮沢賢治
誰もが一度は耳にしたことのある「雨ニモマケズ」。
自ら進んで善行を行う天使のような人物は人に嘲られ時には無様な姿を曝け出します。
本当のヒーローは見た目には格好悪いかもしれない、しかし人のために身を粉にして動き続ける人物です。
それが夜王子のカムパネルラ。
峯田さんは「夜王子と月の姫」に1つの解釈を加えます。
それはピーター・パン。
ピンチの時に必ず助けに来てくれるヒーローです。
ここで夜王子のカムパネルラはピーター・パンと重なってゆきます...。
Fake Plastic Tears
今夜もまたプラスチックの涙が
一粒消えてった
出典: 夜王子と月の姫/作詞:ミネタカズノブ 作曲:ミネタカズノブ
「夜王子と月の姫」にはまだ物語があります。
それが「織姫と彦星」の物語です。
1年に1度だけしか姿を見ることができない2人は毎日涙を流し続けます。
その涙は一粒一粒が星となり消えてゆく...。
しかしプラスチックは作り物、つまり偽物の比喩でもあります。
「君は本当に悲しんでいるの?」
私たち人間は醜く愚かな心を持っています。
恋愛の対象にさえ抱いてしまう猜疑心、独占欲、嫉妬という醜い本性。
私たちはカムパネルラのような聖人にはなれないのでしょうか?
人間は愚かだからこそ愛おしい。
そんな気持ちが滲み出る一節です。
9月11日とギザギザ型の水銀船
ごらんよ満月だよ
青兎の目はさくらんぼ
蛍光アンドロメダ
口づけの森のかくれんぼ
九月の十一日
指輪を落とした月の姫
眠れない大人は見た
ギザギザ型の水銀船
出典: 夜王子と月の姫/作詞:ミネタカズノブ 作曲:ミネタカズノブ
9.11同時多発テロとの関連性を指摘されることがある「夜王子と月の姫」の一節。
確かに別れの象徴としてあれほど悲しい事件は稀かもしれません。
しかし9月11日は峯田さんが当時の大好きな人とお別れをした日です。
そう、「夜王子と月の姫」は悲しい失恋の歌として綴られています。
涙で充血した瞳を持つ月のウサギは織姫様=月の姫。
この広い銀河でかくれんぼをしている最中に指輪を落としてしまいます。
しかしその指輪は広い宇宙で見つけることができません。
ここで姿を見せる船は「銀河鉄道の夜」にも登場するタイタニック号です。
大海原に投げ出された乗客は銀河鉄道に乗車します。
そしてサウザンクロス駅(南十字星)で姿を消してしまう...。
タイタニック号は大切な人との別れを象徴しています。
夜王子と月の姫はこのまま会うことはできないのでしょうか?