はじめに この曲について
【明日を夢見て】は、2003年にリリースされたZARD 35作目のシングルです。
前作から約10か月振りとなるファン待望のシングル曲でした。
ZARDのボーカルであり作詞家でもある坂井泉水が紡ぎ出す言葉には力があります。
本曲も"明日"や"夢"などの単語がちりばめられたタイトルから、応援ソングと思った人も多いのではないでしょうか。
いやいや、でも違うんですよ。
実はちょっぴり切ないラブソングなんです。
一度は別れを決意した主人公が、これまでのふたりの関係を思い出し明日を夢見るというもの。
揺れる心が見え隠れする歌詞を、少しずつ紐解いていきましょう。
北朝鮮問題との意外な関係
本曲がリリースされる前の年、2002年にはひとつの大きな出来事がありました。
北朝鮮に拉致されていた日本人拉致被害者5人が帰還したのです。
坂井は本曲を作詞するにあたり、この出来事が歌詞に影響を与えたとインタビューで答えています。
もう一度日本に帰りたいという夢が、拉致被害者たちを支えていたのではないかと考えたそうです。
彼と結婚をしたい。
そしてマイホームを持ち幸せに暮らしたい。
夢といえばこのような現実的で具体的なものが多いような気がします。
でもこの時、坂井が考える夢には、もっと重い気持ちが込められていたんです。
本曲にそんな世相が影響を与えていたなんて、ちょっと意外な結びつきですね。
アニメソングとして
「名探偵コナン」は長年に渡り人気を博す少年探偵漫画です。
そのテレビ版アニメーションのエンディング曲に本曲は使われています。
ZARDの曲は他シリーズでも使用されており、「名探偵コナン」だけでも全部で9曲ありました。
その他のアニメーション、「SLAM DUNK」や「ドラゴンボール」といった少年漫画。
また少女漫画「ときめきメモリアル」でも使われていて、老若男女問わず幅広いリスナーがいます。
ひと昔前のアニソンといえば、漫画に合わせた子供向けの歌が当たり前でした。
しかし90年代後半から、ポップス界で活躍する歌手の歌がアニソンとして流れるように。
そして2000年以降はその形式のほうが主流となります。
ZARDの特徴といえば、まず優しい声質、柔らかな曲調ですね。
過激な言葉使いがなく、子供にも安心して聞かせられる歌詞内容というのもアニソンにはぴったりです。
それらの要因から、ZARDの曲はアニソンとして採用し易かったのでしょう。
歌詞を徹底解釈
それでは歌詞の解釈にはいりましょう。
曲の最後に"おや"と思わせる余韻を残す展開があります。
どうぞ最後までお楽しみください。
願望
夢のように 選びながら
この毎日を 生きていけたなら
出典: 明日を夢見て/作詞:坂井泉水 作曲:大野愛果
誰もがそうあって欲しいと思うことでしょう。
こんなことしたい。
こうなったらいいな。
毎日思い描く沢山の夢を、自分の思うがままに選び、その通りに生きていくことができる人生って素敵です。
まさしくそれこそが"夢"とも言えるのではないでしょうか。
ましてや今なにかの問題に直面していたり、今の状況に苦しんでいたりする場合、共感度が倍増するフレーズです。
歌の主人公は、今まさしく、そういう状況にいるようですね。
後悔
もしもあの時 違う決断をしていたら
今頃私達(ふたり)幸せに笑っていられたのかな
出典: 明日を夢見て/作詞:坂井泉水 作曲:大野愛果
ここではっきりしますね、ふたりは今、幸せな状況ではないことが。
更にはあの時の決断を後悔していることも読み取れます。
歌の主人公はこれまでわき目もふらず前進を続けてきたのでしょう。
そんな日々を送る中、やっとひと息つける余裕が出てきたのかもしれません。
そしたら何だか寂寥感が広がってしまったようです。
ただ100パーセント後悔しているのかというと、そうではないようです。
なぜなら、言葉の最後が"かな"で終わっているから。
もしも、決断を間違えたとか、あの時に戻って違う選択をしたい、そう思っているとしたら"かな"とは言わないはずです。
時間を戻すことはできません。
なので今の時点で言えることは、あくまでも仮定でしかないのです。
違う決断をしていたら、幸せに笑っていられたのでしょうか。
それは誰にもわかりません。
なので主人公はあの時の決断に少し後悔しつつも、すべて間違っていたとも思っていないのでしょう。
いや、そう思いたくないのかもしれません。
間違っていたとしてしまうと、これまでの人生を否定することになってしまうからです。
人生には小さな出来事から大きな出来事まで、決断を迫られる場面がありますよね。
自分がしてきたあの時の決断はどうだったのか、歌を聴きながら振り返ってみてはいかがでしょうか。