明るすぎる「No.7」の罠
大森元貴の毒に気をつけて
2016年1月13日発表、Mrs. GREEN APPLEのファースト・フル・アルバム「TWELVE」収録曲「No.7」。
ザクザクとしたパンキッシュなカッティング・ギターとダイナミックなサウンドが特徴の曲です。
パーティー・ソング並みに明るい弾けた曲なのですが歌詞に毒が仕込まれています。
大森元貴は常日頃から「グサッと刺さる歌詞を書きたい」と考えている詩人です。
ユーモアや皮肉、諧謔を交えて皮相な世間をぶった斬るような毒のある歌詞を書きました。
大森元貴の歌詞を読み込むとこの国の深刻な状況が照らし出されています。
それでもサウンドは飽くまでもキャッチーに決める辺りがMrs. GREEN APPLEらしいです。
日本社会への現状には否定的な鬱憤が渦巻く歌詞で日本国民全員が耳を貸すべき内容。
この曲がより多くの人に届きますように願って歌詞を解説していきます。
それでは実際の歌詞を見ていきましょう。
脳が問題らしい
バラエティ番組のような馬鹿騒ぎ
正常な脳では無い様だ
嫌になっちゃうね
「AHAHAHA!」
笑わせないでよ 逆にオモシロイね
Nice! 今の気配りは実は高得点でしたよ
優勝者には 好きなものを好きなだけどうぞ
出典: No.7/作詞:大森元貴 作曲:大森元貴
歌い出しです。
かなりぶっ飛んだ歌詞であることがお分かりいただけたかと思います。
終始、このような皮肉やユーモアで展開されるのです。
しかし、ところどころシリアスな箇所があります。
冒頭のラインがこの曲のすべてを表しているのでご注意ください。
脳がおかしいという中々表現に窮する指摘があります。
これが今の日本社会のスタンダードな脳みその在り方だと大森元貴は歌うのです。
その勇気を讃えたいもの。
現代のテレビメディアなどのバラエティ番組の馬鹿騒ぎ。
日常生活のコミュニケーションでもあの空疎なノリが求められてはしないかという問いかけのようです。
日々の友だちとの交友でも思い返せばノリばかりが重視されているなとその弊害に思いを来します。
好きな子の気を惹くにも
馬鹿なノリが最優先
あの子の目に留まりたくて
戯けて魅せては恥ずかしくなるよ
かっこいい馬鹿がいいな お前もそうだろう。
出典: No.7/作詞:大森元貴 作曲:大森元貴
好きな子の気を惹くにも馬鹿騒ぎのノリが優先されることを告発します。
本当はそんなフザけたマネはしたくないのにおどけてしまうこと。
これは同調圧力の高さが主因です。
場をシラケさせるような真似が赦されない笑顔のファシズムが機能しています。
現代日本社会の皮相な側面を取り上げるのです。
パーティー・ソングのような曲調ですが告発している内容はシリアス。
しかし、パーティー・ソングの言葉を巧妙に使ってその告発を行う。
かなり高度な詩作です。
馬鹿騒ぎできる能力ばかりが持て囃される社会は心理的にもう疲れてしまいます。
いつまでこの馬鹿騒ぎは続くのでしょうか。
大切なものはどうしたの
それで子どもの視線に耐えられる?
譲れないもの無いとか
本当なら どうかしちゃったの?!
あの頃の私達は
今をみて なにを思うだろうな
出典: No.7/作詞:大森元貴 作曲:大森元貴
何かにこだわり続けてゆくことには今や罪悪感さえ覚えてしまうようになりました。
思想信条・心情のこだわりが特に嫌われるようで柔軟性ばかりが重宝される社会です。
青少年の頃はむしろ頑固な想いを胸に携えていたはずなのにどうしたことでしょう。
いつの間にか社会に合わせることばかりを優先してしまっている自分がいます。
そのことをこの歌に指摘されるまで何の疑問も感じていなかったのがまた問題です。
子どもの頃や青少年のときのままで成長を迎えることがいいという訳ではないでしょう。
社会人になってこの社会を支えていく一員になるのですから。
しかし過剰なまでに萎縮する社会は病的です。
うまく生きてゆくことだけを目的化してしまってアイデンティティーを失くしてゆくことは怖ろしい。
適合することばかりを求められて牙を抜かれる家畜化された社会はディストピア的です。